これからの働き方を考える

【後編】情報システム部門の課題とこれから、ITの力で経営に資するために今、必要なこと

【後編】情報システム部門の課題とこれから、ITの力で経営に資するために今、必要なこと

IT・デジタルを活用した機会創出や生産性向上が叫ばれる今、企業内のデジタル変革を担っていくことが期待される情報システム部門。

しかし、これまではデジタル機器の管理や既存システムの運用・保守にリソースの多くを割いてきました。

今回の対談では、NPO法人CIO Lounge・友岡賢二氏とワークフロー総研フェロー・沢渡あまね氏に、情報システムの課題と今後について語っていただきました。

前編では、情報システム部門が向き合うべき課題を構造的に分析し、その中で求められるCIOの役割について考えました。

後編では、情報システム部門の1人ひとりにできる社内のデジタル変革について、対談者2名よりお聞きします。

前編はこちら

【前編】情報システム部門の課題とこれから、ITの力で経営に資するために今、必要なこと

OUTLINE 読みたい項目からご覧いただけます。

経営層と情シスが連携して解決すべき10の業務課題 解決のカギはワークフローシステム

“半径5メートル以内”のデジタル化から企業全体の課題解決と利益創出を目指す

“半径5メートル以内”のデジタル化

沢渡:前回、情報システム部門に求められる役割とCIOの必要性について友岡さんとお話ししました。情報システム部門は、商売意識を持たなければいけない。ただし経営層と対等な立場でIT投資を促すには、CIO(最高情報責任者)の立場が必要である、と。

一方で、CIOがいない企業でも、情報システム部門みなさんの身の周り“半径5メートル”以内から、企業は変えていけると思っています。情報システム部門が身近な関係者のデジタル化を支援すると、アナログであるが故に起こっている企業の課題を弁証法的に解決していけるはずだからです。

地方都市の課題 (出典:浜松ワークスタイルLab)

沢渡:例えば、オンラインでの営業を可能にすることでテレワークで対応が可能になったり、女性の特性を生かした営業活動を展開できるようになったりします。営業以外の部門からの売り上げ創出も可能です。つまり、デジタルなやり方に移行することで、営業という職種そのものの形態がアップデートできるのです。

そうしなければ企業は、売り上げを増やすために営業活動を強化することを考えます。ただ、その営業活動も「気合」と「根性」で売るような古いやり方のままでは限界があります。日中は外回りに出ているのが“正義”、社内の営業会議は定時後が当たり前。男性主体かつ気合・根性主義的なやり方が正当化され、多様な人材の活躍も阻んでしまう。

そうこうしているうちに、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとして、顧客側から変化が生まれました。突然オフィスを訪問されても困るし、電話をかけてこられたら迷惑という状況が顕著になりましたね。

そのような状況において、営業、ひいては売り上げ創出のやり方を思い切り変えた企業もあります。内勤型の営業手法であるインサイドセールスや、インターネットを通じたデジタルマーケティングなど、仕組みと仕掛けで解決するやり方へ。さらには、利益率を高めるという方向にシフトしています。

友岡:良いシフトチェンジですね。

沢渡:情報システム部門も、デジタルの力で経営課題を解決する・売上げを創出するという考えを研ぎ澄ませていってほしいですね。そして、まずは、小さなデジタルエクスペリエンスから社内の快感体験や成長体験を作ることが重要です。

自分の身の回り“半径5メートル”で良いのです。まずは「試しにZoom使ってみよう」から始めても良いと思います。そのうち、「デジタルマーケティングやってる部長、カッコイイですね!」といった褒め言葉が、社内で聞こえてくるでしょう。

そうして小さなデジタルエクスペリエンスから社内の意識を変えていくことが、情報システム部門から始めるデジタル化の第一歩だと思います。

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沢渡:小さなデジタルエクスペリエンスを作るといっても、変わらない情報システム部門にいる人にとっては大変な取り組みになるかもしれません。友岡さん、そんな組織にいるみなさんへのアドバイスはありますか?

友岡:たくさんありますよ(笑)。1つのやり方として、情報システム部門内での反対・批判を避ける方法があります。事業の中核を担う部門のトップと仲良くなり、その人の“大きな背中”に隠れてイノベーションを起こすことをおすすめします。

社内で政治的に強い勢力というのは、マーケティングや営業、研究開発、企画部門などです。それらの部門は潤沢な予算を持っていますから。そうした“つよつよな人たち(※)”が何らかの変革をしようと動いたとき、情報システム部門には内緒でその人のサポートをしてしまうのです。
※執行力や影響力の強い人たち

沢渡:なるほど。いざというときは、“つよつよな部門”の役職者が助けてくれることもありますね。真剣に仕事をしていると、最終的にはその部署へ異動ということも......。そうした意味では、転職せずとも社内をポジティブに渡り歩くのも良いかもしれません。

友岡:そうなんです。無駄に敵を作ってはダメで、関係する全員が最終的に幸せにならなければイノベーションの意味がない、と僕は思っています。相手が納得できないアイデアや相手が取れないボールを投げ続けても、組織は変わっていきませんから。

「武闘派CIO」として知られる僕のイメージと真逆かもしれませんが、僕は社内では絶対に闘いません。そのかわり、賢く勝つための作戦をたくさん持っています。

“つよつよの人たち”の陰に隠れてこっそりデジタル化を進めるのは、「この人にやれと言われました作戦」 です。情報システム部門のトップからにらまれても、「営業部長に頼まれたので仕方なく」と“つよつよな人たち”の責任にして、組織の中で何とか生き延びる作戦です。

沢渡:お上手ですね!若手のころを振り返ると、私もそう立ち回っていたのを思い出しました。

友岡:変革に対して極めて消極的で、石橋を叩いて壊してしまうような組織においておすすめしたいのが、「どこまでもPoC作戦」です。これは、新たな施策を始めるときや変革を起こすときに、どこまでも「PoCです」と言い続ける作戦をいいます。

PoC(Proof of Concept)とは、概念実証を指し、テストや実証実験の意味で使われる言葉です。その裏をかき、「あくまでPoC(テスト・実験中)なので」と説明しましょう。すると、だいたいの取り組みは黙認してもらえます(笑)。「まだ本番じゃありませんから」と言っている間に、じわじわと普及させ実質的な標準化を進めてしまう作戦です。

沢渡:相当に草の根的な戦略ですね(笑)。ですが、まさに今日の文脈の通りです。小さなデジタルエクスペリエンスを現場にもたらし、安心感や実績を作ってしまう戦略そのものだと思います。

友岡:「デジタルトランスフォーメーションだ!」と声を荒げ、組織文化を一気に変えようとしてもなかなかうまくいきません。人は目に見えるものしか信じない。だからこそ、目に見える「変化の形」を、短時間かつお金をかけずに提示するのが重要です。

PoCでは、価値の検証を2週間程度で行う時間感覚を大切にしましょう。ストーリーが理解できる最低限のプロトタイプを簡易的に作ってしまい、「こういうのどうですか?」と実際に現場の方に体験してもらうのです。

良いプロトタイプは、その評判が現場での口コミで自然と広がります。気付いたころには、現場の大多数の社員が新たなシステムを使っていたーー。そんな状況が生まれれば、こちらの勝ちです。

また、イノベーションの実験は、本社から遠い辺境の地で人知れずこっそりと始めたほうが成果が出やすい傾向があります。達成まで時間のかかる大きな成功を最初から目指すより、とても小さな粒立ちの成功を短期間でやり遂げることを目指しましょう。

このように、人知れず小さなイノベーションを生み出すやり方を「アリの一穴(いっけつ)作戦」と呼んでいます。アリ1匹が通れる小さな穴を開ければ、後に大群が続くようになるということの例えです。

沢渡:友岡さん、これは情報システム部門が大企業を生き抜くハックになりますね。

友岡:そうですね。大企業を生き抜くという意味では、どのような改革においても、必ず抵抗勢力が現れることを意識しなければなりません。イノベーションを生もうとする場にひそむ抵抗勢力の“トラ”を察知し、事前に避けることを「トラの尾を踏むな作戦」と呼んでいます。

ビデオ会議のチャット画面上で作戦名を整理▲数々の作戦が登場し、ビデオ会議のチャット画面上で作戦名を整理

例えば、すべてのやり取りを電子化しFAXをなくそう、という取り組みではFAXを愛用している人たちが“トラ”に当たります。FAXをなくすのはとても大変です。「FAXにはFAXの良さがある」とか「人の書いた字は温かみがあって良い」といった声が、反対意見として湧きあがってくるためです。まさに「トラの尾を踏んだ」状況に陥ってしまいます。

さらに言えば、トラと向き合わなければないけない場合、それはイノベーションではなく、業務改善だと思ってください。イノベーションはゼロからイチを生み出す営みです。何かを置き換える取り組みはすべて業務改善にあたります。

ですから、最初から何もないところを探し出し、そこを攻めたり、誰も取りに行かない三遊間のボールをあえて取りにいったりするほうが喜ばれます。いわゆるブルーオーシャン戦略ですね。ITのサポートがまったく及んでいないけれどIT化を進めれば多くの人に喜んでもらえる領域が必ずあります。そうしたスポットに、IoTやSaaSを使った新しいサービスを短期間で作り提供していけば良いのです。

沢渡:情報システム部門というと、基幹システムの開発と維持運用に専念しているイメージが強い企業もあります。基幹システムはもちろん大事ですが、開発完了までの期間が長すぎて、迅速かつ身近なデジタルエクスペリエンスを提供しにくいのが弱点です。時間をかけすぎると、どうしても関係者のモチベーションを下げますし、情報システム部門のタスクや成果が見えづらくなってしまいます。

基幹システム以外のブルーオーシャンを見つけ、2週間なり短いスパンでまず何らかの小さな変化を起こす。その戦略も大事だと思いました。

友岡:イノベーションが起きている企業では社外のコミュニティとゆるくつながり、さまざまなトライ&エラーを実践しています。そこには、失敗に対する寛容さもあるのです。巨大な組織はすぐに変わるわけではありませんが、小さな変化を起こし続けることが重要です。

野球に例えれば、打率を上げることよりも、打席数をとにかく増やして安打数を増やすイメージです。ちなみに、今までお話した作戦はすべて僕の実体験なんです(笑)。

沢渡:お見事です!情報システム部門はITのプロ集団です。経営に資するデジタル化をまず身近なところから進め、上手に社内変革を起こしていけると良いですね。

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沢渡:最後に、これからの情報システム部門があるべき姿について友岡さんにお聞きしたいと思います。

友岡:僕は「Whyから始めなさい」とよく言っているんですね。先日、IT機器を更新する稟議書が回ってきましたが、その機器を更新するビジネス的な必然性が書いてありませんでした。What(IT機器)とHow(更新の要件)については詳細に書かれていました。

ですが、Whyがなければ、その機器更新によって我々のビジネスにどのような利益がもたらされるのかがわかりません。経営層も投資判断ができませんよね。

Whyのスタート地点は、目の前の物事がビジネスにおいてどのような意味を持つのか、という視点です。顧客がどのような痛みを抱えているのか。デジタルを駆使してどのように役立ち、ビジネスの継続につなげるのか。お客さま視点でビジネス全体を見通し、ストーリーを紡ぎあげる力が必要です。それができなければ、どんなに最新の情報システムに詳しかったとしても、事業会社のエンジニアとしては失格だと思います。

沢渡:おっしゃる通りだと思います。部門長に対してはいかがですか?

友岡:部門長に言うことは、「とにかく勉強し続けなさい」のひと言です。情報システムの世界は変化が速く、半年前の正解が今の正解でなくなることが平気で起こりますから。その変化に対応するのが大変だと言う部門長もいらっしゃいますが、そう思う時点で情報システムの仕事に向いていません。今すぐ辞めてほかの仕事をしたほうが良いです。

沢渡:その人がイノベーションを疎外してしまうため、ですね。

友岡:はい。確かに、ソフトウェアは頻繁にアップデートされますし、新しいクラウドサービスも次々に登場しています。そのたびに学習する必要があり、「費用だ、セキュリティだ」と言ってくるさまざまな人たちを説得する必要もあります。その大変さを「楽しくて仕方ない」と思える人でなければ務まらない、厳しい世界なのは事実だと思います。

一方で、とてつもなく大きなイノベーションを起こせる領域でもあります。さまざまな技術やサービスがどんどん新しくなり、それらをうまく組み合わせて使うことで世の中をより良い世界に変えていく。このエキサイティングな世界に身を置けるなんて、大きな喜びではありませんか。僕はいつもワクワクしていますし、CIOは僕の天職だとつねづね思っているんですよ。

残念ながら日本では、情報システム部門の仕事が正当に評価されているとは言い切れません。ですが、僕たちエンジニアは、社会をよりよくしたいという想いでつながっています。そんな仲間同士での高い熱量を持ったコラボレーションによって、世の中をより良いものに変えていきたいですね。

闘志と葛藤を抱えた情報システム部門のみなさんへ伝えたいのは、少なくとも僕は評価していますから。めげないで。

沢渡:心から共感します。力強いメッセージをありがとうございました。

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<対談者プロフィール>

友岡 賢二 氏

NPO法人CIO Lounge
友岡 賢二氏

大学卒業後、家電メーカーに入社。独英米に計12年間駐在したのちアパレル企業の情報システム部長に就任。現在B2BメーカーのCIOを務める。

CIO Loungeではボランティアとして企業デジタル化のコンサルテーションを無償で実施。一貫して日本企業のグローバル化を支えるIT構築に従事する。“武闘派CIO”として精力的に講演活動を行う。

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沢渡 あまね 氏

ワークフロー総研フェロー
沢渡 あまね氏

1975年生まれ。作家、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士。あまねキャリア工房 代表(フリーランス)/株式会社なないろのはな取締役 浜松ワークスタイルLab所長/株式会社NOKIOO顧問。日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社を経て2014年秋より現業。経験職種は、ITと広報。

350以上の企業/自治体/官公庁などで、働き方改革、マネジメント改革、業務プロセス改善の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。著書に『職場の科学』(文藝春秋)、『ここはウォーターフォール市、アジャイル町』(翔泳社)、『ざんねんなオフィス図鑑』『ドラクエに学ぶチームマネジメント』(C&R研究所)、『バリューサイクル・マネジメント』『職場の問題地図』『業務改善の問題地図』(技術評論社)など。趣味はダムめぐり。
#ダム際ワーキング エバンジェリスト。

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ワークフロー総研 編集部
この記事を書いた人 ワークフロー総研 編集部

「ワークフロー総研」では、ワークフローをWork(仕事)+Flow(流れ)=「業務プロセス」と定義して、日常業務の課題や顧客の潜在ニーズの視点からワークフローの必要性、重要性を伝えていくために、取材やアンケート調査を元にオンライン上で情報を発信していきます。また、幅広い情報発信を目指すために、専門家や企業とのコラボレーションを進め、広く深くわかりやすい情報を提供してまいります。

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