【前編】情報システム部門の課題とこれから、ITの力で経営に資するために今、必要なこと
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IT・デジタルを活用した機会創出や生産性向上が叫ばれる今、企業内のデジタル変革を担っていくことが期待される情報システム部門。
しかし、これまではデジタル機器の管理や既存システムの運用・保守にリソースの多くを割いてきました。
今回の対談では、日本企業におけるCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)の役割定着と情報化社会の発展に尽力するNPO法人CIO Loungeより、友岡賢二氏をゲストにお迎えしました。
ホストは、IT化・デジタル化を通じた業務改善を支援する沢渡あまね氏です。「情報システム部門の課題やこれからのあり方」について、2回にわたってお話を伺います。
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日本企業で情報システム部門起点のDXが進まない背景
沢渡:近年、日本企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れが指摘されています。
その問題の背景の1つに、デジタルエクスペリエンス、つまりデジタルで仕事をする経験が圧倒的に不足していることが挙げられると考えます。
全国350以上の組織の業務改善に携わってきた中で、レガシーな大企業ほどデジタル化への拒否反応が強い印象です。
例えば、情報セキュリティやコーポレートガバナンスを盾にして「クラウドサービスは危険だ」と意見する。
本当は、最新のITツールを使うことで、すぐさま相手とコミュニケーションを取り意思決定し、素早いトライアンドエラーが可能になるにも関わらず、です。
大企業や官公庁や行政のデジタル化が遅れれば遅れるほど、日本全体でデジタルエクスペリエンスが不足することになります。
大きな組織ほど、関係人口が多いためです。デジタルでなめらかに仕事を進め、ビジネスを加速するスキルが国全体で奪われてしまいかねない。このことに私は大きな危機感を抱いています。
友岡:過去の成功体験から、あらゆる変化を嫌うという大企業の特徴が現れていると思います。企業がずっと業界トップでいられるなら、企業の中だけで閉じた“ムラ社会”のままでも良いと思います。
ただ、今はビジネスのゲームチェンジが起こる時代です。新興のIT企業が業界の外から突如新規参入して、産業構造自体を変えてしまう場面は多々あります。
もともと優秀な方が集まっていますので、大企業の中の人たちもその変化に気付いていますし、危機感を抱いているものです。
ただ、「変化・変革」を社内で切りだすと、変わることのリスクばかり持ち出されてしまう。先ほど沢渡さんがおっしゃったように、「クラウドは安全だと言い切れない」といった議論はよくありますよね。
しかし、変わらないことによるビジネスリスクについては、会社の中で議論されません。クラウドに切り替えないことによるビジネス上の機会損失リスクは見逃して良いのかということです。
沢渡:要は、「黒船」が来たことに気付いているかどうかですね。
友岡:そのうえで情報システム部門の第一課題は何かというと、事業会社の社員であるという意識が欠如しまっていることです。
事業会社の目的はお客様をハッピーにして適切な利益を上げる、要は儲けることです。どれだけセキュリティやプログラミングに詳しいとしても、それが儲けにつながらなければ趣味みたいなものです。
ですから事業会社で働く情報システム部門のみなさん、まずは「商人(あきんど)」であろうと。商人意識が欠如しているがゆえに「あれもダメ」「これもダメ」と言ってしまうので、事業部門の人たちが独自に商売に必要なITツールを導入するのです。
沢渡:部門や社員が無断で使いはじめ企業組織はその状況を把握していない、いわゆる「シャドーIT」と呼ばれるものですね。
友岡:実際に、クラウド化が進んだ企業におけるその第一歩は「シャドーIT」がほとんどです。とても残念なことです。情報システム部門は、自らが率先して改革をリードできるポジションにいるにも関わらず。
沢渡:友岡さんのお話にはとても共感します。こと情報システムでいえば、過度な内製主義に発展してしまいました。
内部の特殊仕様に合わせた仕組みを時間をかけて構築した結果、ガラパゴスで難解な仕組みが出来上がってしまったのが現状でしょう。
友岡:おっしゃる通りだと思います。他社の情報システム部門へ提言にいくと、「うちのビジネスは特殊だ」という意見をよくいただきます。
「だからSaaSの導入は難しい、無理だ」といった論理でデジタル化が進んでこなかったのですね。
ただし、スタートアップ企業など外の世界を見たうえでの発言かというと、そうでもありません。よって、情報システム部門が外の企業を見ていないことは大きな問題です。
また、「うちは特殊だ」と言ってしまうのは、抽象化する能力に乏しいということの裏返しです。
システム全体の要件を抽象化すると、この部分は外注せずに自社で構築できそうだとか、このサーバーを自社で持っておく意味は何かといった議論ができます。そうした議論に至らず、短絡的な意見ですべてが進んでしまうことをとても残念に感じます。
とはいえ、情報システム部門の方は抽象化する思考能力が訓練されているはずです。業務プロセスをプログラムに落とし込むとき、抽象化のプロセスを経ますよね。
ですから、「うちは特殊だ」という意識はそろそろ止めませんか?ということです。他の業界で成功しているビジネスアイデアを自社に取り込むような発想が必要です。
沢渡:アリの目だけでなく鳥の目も大事ですよね。アリの目ばかりで仕事をしていると、要件や改善要望が細かくなりすぎ、そのことが特殊性を生む原因になってしまいます。
鳥の目でつねに全体を見、ものごとを抽象化する。それが商人意識にとって大切なことだと思います。
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情報システム部門の本質はIT・デジタルを駆使し企業利益に資すること
沢渡:社内のデジタルエクスペリエンスを増やすことで、情報システム部門は企業のデジタル化を中から推進できると考えています。
ところが、大企業ほど「情報システム部門=基幹システムの“おもり”をしている人たち」と見る風潮があると思います。
基幹システムというのは、企画から導入までに数年単位の時間がかかります。デジタルによって業務効率や生産性が向上する体験を、利用者である社員などに即座にもたらすことができません。
また、基幹システムを直接使う関係人口は限られる場合も多いでしょう。むしろ、全社員が毎日必ず使う、メールやビジネスチャット、オンラインミーティング、ファイル共有、ワークフローなどのいわゆるコミュケーション基盤のオープン化や刷新に力を入れたほうが、より多くの人口がデジタル化の効果を実感しやすいと感じています。
だからこそあえて、「情報システム部門は『基幹システム屋』になっていいのか?」と問いたいと思います。
友岡:基幹システムについては、僕にもある原体験があります。大手家電メーカ―に新卒で入社して、最初に連れていかれたのがとあるオーディオ工場の現場でした。「生産管理システムの神様がいるから見てこい」と。
沢渡:「基幹システム系の神様」ですね、大手メーカーには少なからずいると思います。
友岡:生産現場には最新の実装機が導入され、ものすごいスピードで電子部品を基板に装填していました。
組み立てから検査工程に至るまで、工場は非常にシステマティックに運営されていましたので「生産管理システム、すごいですね!」と叫ぶと、「いや、ここでは生産管理システムは使われていない」と言い返されました。
実際の生産管理システムは、工場の隅にあるガラス張りの部屋の中にあったのです。そこには8人ほどの社員がいて、生産計画の作成と実績値の入力作業などを行っていると教わりました。
生産現場で付加価値を出しているのは、実際にモノを作っている人たちです。にも関わらず、その人たちがITサービスの恩恵直接受けていないことに違和感を覚えたものです。
同じように、直接的な売り上げに貢献している営業のみなさんに対しては、基幹システムのサポートはかわいそうな程度しかありませんでした。
マーケティング部門へのサポートもCSVファイル提供程度でほぼゼロでしたし、研究開発部門なんてそもそも情報システム部門をあてにしていませんでした。
要は、スマイルカーブ(※)でいうところの高付加価値部門におけるデジタル化が進んでいないのです。一方で、ERP(基幹システム)は、スマイルカーブ上の中央に位置する低付加価値領域に特化してきました。この領域はルーティン作業の割合が多いので、システム化しやすいからです。
※スマイルカーブ|各事業工程と付加価値の高低を表したグラフ。グラフの形が笑顔(スマイル)のように曲線を描くことから名付けられる。
しかし、今はクラウドやSaaSをはじめ川上・川下をサポートする道具立てがたくさんあります。基幹システムと異なり、高い費用もかかりません。
付加価値の高い領域に最新のITツールを積極的に活用し、“儲ける”ことにいかに貢献できるかを真剣に考えるのが、僕が思う情報システム部門の責務です。
沢渡:さらに、最新のITツールは万人が使いやすい仕様になってきていると思います。タブレットとクラウドベースの仕事のやり方に変え、生産性と業務効率を大きく改善したとある食品製造業の現場もあります。
最初は「ITなんて使えるわけがない」と言っていたご高齢のメンバーもいました。でもいざITツールを使ってみれば、その便利さに気付きます。今ではご自身の作業におけるムダに気付き自ら改善に動いてくれるようになりました。
友岡:そんな中、「クラウドは危ない」「スマホは使うべきではない」といった言葉を盾に、情報システム部門の責務から逃れている人たちには2種類のタイプがあると思っています。
「無能タイプ」と「嘘つきタイプ」、厳しく言ってこのどちらかです。どうやったら出来るかを考なければならないし、考えられないなら考えられる人を雇い、その人に任せるべきです。
もしも出来るやり方が分かっているなら、過去に縛られたり、周囲の反発を恐れて口をつぐんでしまってはいけません。
また、「噓つきタイプ」はレガシーベンダーにたくさんいますので、その人たちに騙されないようにしないといけません。
沢渡:デジタル化の阻害は、社内、ひいては日本全体の発展を妨げる悪しき行為になりかねません。
デジタル化によって社員1人ひとりの成長が生まれます。日本でもITの“市民権”を獲得することが大事だと改めて思います。
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CIOという職業を日本に根付かせたいーー経営と現場をつなぐCIOの役割
沢渡:日本企業でデジタル化を進めるためには経営層の意識改革が必要だとの声も聞かれますが、どうお考えですか?
友岡:経営層の意識改革を情報システム部長ができるかというと、正直なところ難しいと思っています。僕がCIOの役割が必要だと主張している理由はそこにあります。
経営に対してITがどう貢献できるかを考え、役員みなさんに説明し理解いただくためにはCIOという役割がなければ難しいのです。
引用:政府CIOポータル|内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室
僕も当然、毎月役員会に出ていますが、その場で話すのは業務報告だけではありません。最近のITトレンドや脅威について話します。
DXとは何ぞやというテーマも持ち掛けますし、最新の成功事例を提示しながら自社におけるITの意義を役員のみなさんに解説しています。
IT関連の話を経営層に意識してもらいたければ、“おせっかい”ともいえるこのような努力がどうしても必要です。
でなければ、議題に上がるのは、基幹システムの更新に係る高額な稟議書が稟申されたときくらい。そして「そんなシステム本当に使うのか」と怒られる。そのようなケースがほとんどでしょう。
沢渡:ボードメンバーにCIOというITのプロがいる価値は、経営層の意識をアップデートしやすいことだと思います。
友岡:そうですね、僕もそうした背景からCIO Loungeの活動をしています。CIO LoungeではCIOのいない会社の経営者や情報システム部門の相談にあたり、企業のデジタル化を通じて、広く情報化社会の発展に寄与することを目的としています。
一方で、CIOという職業を日本で確立したいという想いもあるのです。CIOの活動を通じてITに対する経営層みなさんの意識が変わっていくこと、それが今、日本の企業に求められることだと思っています。
沢渡:北米企業でCIOがいない会社なんてまずないーー。以前、友岡さんからお聞きし印象に残っている言葉です。それだけ北米ではITが、経営の柱としての市民権を得ているということでしょうね。
友岡:そうですね。あのGAFAが台頭したのも、インターネットの登場後に変わってしまったビジネス変革に自社事業をうまく合わせてきたからです。
スマホでもクラウドでも強いのは海外企業です。日本企業は、インターネット時代の波に大きく乗り遅れてしまったと言わざるを得ません。
とはいえ、今後IoTが普及する中で、モノがインターネットに繋がる世界で新たなサービスが生まれる余地はまだまだあります。
次なるステージの戦いはまだ始まったばかり。日本企業にも勝算はまだあると思っています。
前編では、情報システム部門が向き合うべき課題を構造的に分析し、その中で求められるCIOの役割について考えました。
後編では、情報システム部門の一人ひとりにできる社内のデジタル変革についてお話しします。
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ワークフローシステムで解決
経営×情シスで取り組むべき課題10選
経営と情シスが連携して解決すべき業務課題について、解決策とITソリューションを提示しています。
こんな人におすすめ
・従業員規模500人以上。
・DXや働き方改革を推進したい。
・経営と情シスの連携を強化したい。
<対談者プロフィール>
NPO法人CIO Lounge
友岡 賢二氏
大学卒業後、家電メーカーに入社。独英米に計12年間駐在したのちアパレル企業の情報システム部長に就任。現在B2BメーカーのCIOを務める。
CIO Loungeではボランティアとして企業デジタル化のコンサルテーションを無償で実施。一貫して日本企業のグローバル化を支えるIT構築に従事する。“武闘派CIO”として精力的に講演活動を行う。
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ワークフロー総研フェロー
沢渡 あまね氏
1975年生まれ。作家、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士。あまねキャリア工房 代表(フリーランス)/株式会社なないろのはな取締役 浜松ワークスタイルLab所長/株式会社NOKIOO顧問。日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社を経て2014年秋より現業。経験職種は、ITと広報。
350以上の企業/自治体/官公庁などで、働き方改革、マネジメント改革、業務プロセス改善の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。著書に『職場の科学』(文藝春秋)、『ここはウォーターフォール市、アジャイル町』(翔泳社)、『ざんねんなオフィス図鑑』『ドラクエに学ぶチームマネジメント』(C&R研究所)、『バリューサイクル・マネジメント』『職場の問題地図』『業務改善の問題地図』(技術評論社)など。趣味はダムめぐり。
#ダム際ワーキング エバンジェリスト。
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「ワークフロー総研」では、ワークフローをWork(仕事)+Flow(流れ)=「業務プロセス」と定義して、日常業務の課題や顧客の潜在ニーズの視点からワークフローの必要性、重要性を伝えていくために、取材やアンケート調査を元にオンライン上で情報を発信していきます。また、幅広い情報発信を目指すために、専門家や企業とのコラボレーションを進め、広く深くわかりやすい情報を提供してまいります。