今後増加するプロジェクトベースの働き方 必要なのは、社員一人ひとりのキャリア観の把握

今後増加するプロジェクトベースの働き方 必要なのは、社員一人ひとりのキャリア観の把握

本記事は、組織・人事領域をテーマにした調査・研究・情報発信を行うカオナビHRテクノロジー総研 所長の内田 壮氏と、ワークフロー総研 所長 岡本の対談をまとめたものです。
メインテーマは、昨今話題になっているジョブ型雇用。各企業が取り組む理由や課題を聞くとともに、ジョブ型雇用が企業の在り方をどう変えていくのか、そしてワークフローがどう関連し、ワークフローには何ができるのか、などを語りました。

<対談者プロフィール>

内田 壮 氏

内田 壮 氏

一橋大学社会学部卒業後、日本エス・エイチ・エルへ入社、人材データを用いた人事コンサルティングに従事。一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース卒業後、ヘルスケア企業の経営企画を経て、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所にてHRテクノロジーの海外動向調査等に従事し、2017年よりカオナビに参画。
現在は、社長室長とカオナビHRテクノロジー総研の所長を兼任。そのほか、スタートアップ支援やアライアンス関連などを担当。

岡本 康広

ワークフロー総研 所長
岡本 康広

ワークフローシステムを開発・提供するエイトレッドの代表取締役社長も務める。
ワークフローを出発点とした働き方の見直しが意思決定の迅速化、組織の生産性向上へ貢献するという思いからワークフローの普及を目指し2020年4月、ワークフロー総研を設立して現職。エイトレッド代表としての知見も交えながら、コラムの執筆や社外とのコラボレーションに積極的に取り組んでいる。

世の中の人材マネジメント力の向上を目的に総研を設立

岡本:まずはカオナビHRテクノロジー総研を⽴ち上げた背景や狙いを教えてください。

内田:カオナビの事業をやる中で、人事やHRテックのノウハウが蓄積されていきます。その情報を広く社会に還元していきたいということが立ち上げの背景です。そうすることで、世の中の人材マネジメントのレベルアップがはかれればいいな、という想いがあります。

岡本:ワークフロー総研とはアプローチが違いますね。ワークフローはまだ市場が小さく、ワークフローシステムの存在や課題解決の手段を知っている人だけの市場になっているので、まずはワークフローを知っていただくための活動をしている段階です。お客様の課題が明確になり、その課題はワークフローシステムで解決できることを気づいていただくための活動をしております。

岡本:今取り組んでいる、また取り組みたいテーマなどはどういったものですか?

内田:最近注力しているのはリモートワークですね。世間的な注目度が高く、社会的な意義も強いですから。どれぐらい多くの会社がやっているか、やってみてどうだったかなどのアンケート調査を行い、情報発信しています。これは、意外と他社が取り上げていないという側面もありますね。リモートワークは人材マネジメントや生産性に与える影響も大きいため、現状を調べて情報発信することは、世の中にとっての重要度も高いと思っています。

岡本:総研での情報発信に関して、業界内における他社からの反響はいかがですか?

内田:HRテック界隈の経営者さんや人事の方から、「参考にしています」「面白かったです」というお声をいただくことはありますね。ありがたいですし、届くべきところに情報が届いていてうれしく思います。

一概にジョブ型雇用がいいとは言えない

岡本:では、メインテーマであるジョブ型雇⽤について、企業が本腰を入れて取り組むようになった背景や取り組む理由について教えてください。

内田:大きな枠組みでは、長期的なトレンド、そしてコロナによる短期的なトレンドがあります。ひとつは人事制度の複線化という話が昔からあります。個人の価値観や専門性などが多様化する中で、人事制度も多様化が求められているということです。これは約30年前に私の恩師が書いた論文でも「人事制度の複線化に取り組む必要がある」と書かれているほど大きなテーマです。例えば専門職制度が進むなど、人事制度の複線化自体は着実に取り組まれています。

内田 壮 氏 1枚目画像

岡本:コロナ以前から論じられていた大きなテーマなのですね。

内田:もうひとつの背景には、高度専門家の活用が迫られているということがあります。例えば、ノーベル賞級の研究者や一人で数十億稼ぐトレーダーが、社長より低い待遇でいいのかという話です。昔はそれでもよかったのですが、グローバルな人材争奪戦においてはそうはいきません。

岡本:優秀な日本人も海外に飛び出していますし、年功序列のような横並びモデルでは、海外との比較で高度人材が獲得できない状況ということですね。

内田:短期的な目線でいうと、コロナで一気に噴出した話として、ジョブの定義を作らないといけない状況になったということです。リモートワークになり、各人の役割を明確化することの必要性がクローズアップされましたから。あとは人件費削減の圧力によるものですね。かつては成果主義という単語で行われていた給与削減が、ジョブ型雇用というキーワードで行われる危険性をはらんでいると思います。

岡本:選ばれる者と選ばれない者とで二極化していくような状況になっていると感じます。

内田:はい。労働者目線で言うと、長期雇用に守られるというポジションが取りにくくなっていくと思います。

岡本:舵取りが難しいですよね。国としては格差の広がりはよくないとしつつも、ジョブ型雇用を推進する制度や仕組みに変わりつつありますから。

内田:企業文化にも関わってくるので簡単ではないですし、一概にジョブ型雇用がいいとは言えないと思います。若い方のアンケートによると、長いトレンドでみれば、終身雇用を求める声が年々大きくなっていたりします。

岡本:ジョブ型雇⽤を進める上でのハードルについて教えてください。

内田:まずは職務記述書。ジョブディスクリプションが必要なのですが、作るのが結構大変でして、一個一個余すことなく作り込むのに大変手間がかかるというものが挙げられます。さらには、待遇面。営業部長とマーケティング部長でどちらの給与が高いべきかなど、ジョブごとの待遇を考えないといけないのですが、これも大変です。

岡本:確かに、人事異動なども考慮しないといけませんよね。

内田:ポジションで待遇が如実に変わるので、社員はキャリアづくりにシビアになりますし、人気ポジションに繋がりにくい仕事に関しては、手を挙げる人がいないということも起こりえます。そのため、スキルとジョブのマッチングを追求すると、ゆるいジョブローテーションが行いにくく、ジェネラリストを作りにくくなります。

部署間調整の効率も低下します。各部署が専門家集団になり、さまざまな部署をローテーションした人材が減ると、各部署は部署の論理や専門家の論理を追求し、調整が困難になる可能性が高まります。ローテーション人材であれば、部署の代表以前に会社の人間という自意識がありますし、各部署の気持ちがわかったりキーマンが誰かわかったりするのですが。

岡本:確かにそうなりますよね。あとジョブ型雇用に対し、日本の企業やカルチャーであるメンバーシップ型雇用がありますが、働き方はどう変わっていくとお考えですか?

内田:ジョブ型の普及の話は長く太いトレンドで、増えていくという流れは当然あります。いろんな人がいる世の中で、総合職制度一本でいいのかというと無理がありますし、多様化の中でジョブ型はある程度広がっていくでしょう。

ただ、ジョブ型一本の会社が多くなるかというと、副作用もあってなかなか難しいとも思います。現実的には大手企業が行っているように、総合職的な人事制度もありつつ、専門職的な人事制度も併用する形が、多くの企業では落としどころだと思います。

岡本:営業や開発など、部署によって評価制度が変わってくるということですよね。

内田:そのやり方もありますし、ほかには、同じ部署でも私はスペシャリスト、私は総合職と、自ら発信していく方法もあります。重要なのは選択肢があるということです。

岡本:複雑だからこそシステムが必要だと思います。例えば御社の事業で言えば、カオナビでログを残していくなどですよね。

内田:はい、その通りです。例えば、Aさんは総合職志向なのか専門職志向なのか、どんな性格か、という内容ですね。上司は変わるものなので、カオナビに残していないと異動の時に、以前の上司に伝えていた職種志向などの重要な事についても間違えかねませんから。

岡本:御社が人事や組織で最も重要視しているポイントはどこでしょうか?

内田:私なりの見解もありますが、しっかりとその人のことを知る、ということです。それを一言で表現したのが「顔と名前の一致」という言葉です。顔と名前だけでなく、キャリア、性格、職歴などいろいろなものが紐づいて、それらをわかったうえで配属を決めたり評価したりのアクションが大切だと思います。当たり前のことに聞こえるのですが、実際は、こうしたことがわからない状態で決めている会社、マネージャーも多いという危機感があります。

カオナビがあれば隠れた人材の宝探しができる

岡本:ジョブ型雇⽤導⼊への課題として、「承認プロセスの整理や内部統制」などもクリアする必要があるかと思います。この点はまさにワークフローの整備になるとも考えていますが、内⽥さんはどう思われますか?

内田:プロセスの整理に関しては、職務記述書を作る関係上で整備は必要でしょうね。リモートワークの状況下では、なんとなく空気を読むキーマンのような力は働きにくくなるので、承認プロセスの明確化や整理は急速に進んでいくと思っています。

やり方としては、暗黙として行っていたことを言語化することなので、そこまで大変ではないでしょう。ただ、しっかり言語化するとなると難しいとは思います。ただ、この作業自体は価値があると思います。余計な調整をそぎ落とすいい機会になりますし、その結果、組織のスピード感などが上がっていくでしょう。そういったことを定期的に行って、ぜい肉的な承認プロセスを削いでいく。それらを経てできたワークフローは質が高いものになります。

岡本:私は、ワークフローとは会議を可視化、仕組化して、時間と場所にとらわれずスムーズかつスピーディーに行うようなものだと考えています。会議の目的は意思決定ですが、今までは集まるメンバーを慣習に則って決めていたのが、ジョブ型になるとタスクフォースなどプロジェクトを立ち上げ、専門性や知見を持っている人を集めて事業を推進していくことになると思います。そして意思決定も、プロジェクトの適任者が行うようになりますし、意思決定の精度も高まるはずです。

誰をプロジェクトに参加させるのか。その点でまさに組織や人の情報が管理、見える化されていることが重要だと思いました。社員一人ひとりは点の存在ですが、それを線でつなげているのが人事戦略(HR)。そして、社員同士を組み合わせ、プロジェクトを立ち上げたり、部署や社員同士の関係性も踏まえた暗黙的なパワーバランスを人事管理で顕在化してチームを組み立てる。ワークフローは線同士を情報というデータでつないでいくものなので、ワークフローから見ても人材管理の重要性を理解しました。

岡本 康広

内田:おっしゃる通りですね。タスクフォースでの意思決定において、どういうワークフローで組むのか、というケースがあったとします。そこではマネージャーだからというよりは、マーケティングの観点でこの人が適任なので承認するみたいな組み方が、新しく出てきそうだと思いました。

岡本:私は普段から、ワークフローはさまざまな人たちのノウハウやアイディアなどの知見が集積された「集合知」であるべきだと考えているのですが、誰の意見を反映させるか、誰と誰でチームを組むかというところは、御社のようなタレントマネジメントや人材管理の視点がないと、旧来のあり方で終わってしまいます。そこを見出す力はすごく大事ですね。

内田:ワークフローが単なる承認システムではなく、非同期で会議をやるシステムということは、皆で知恵を出し合ってよりよい意思決定にしていくというプロセスそのものですよね。

岡本:会社には多種多様な人材がいますが、彼らでどうプロジェクトを推進すればいいのか。その場面においてなんとなくの感性で選ぶのではなく、社内に隠れている宝の人材を見つけてアサインしたい。カオナビがあればその宝探しができるということですね。これは新たな発見でした。

自立的なキャリア構築が問われる時代に

岡本:昨今急激にジョブ型雇⽤への動きが活発化していますが、企業の雇⽤へのあり⽅は、どのように変化していくとお考えですか。

内田:スキル、経験、仕事内容、待遇などの関係性が強まってくるので、個人として自立的にキャリアを構築していくという考え方がますます強くなっていくと思います。これは20年前から言われていて、陳腐に聞こえますが、より強いトレンドになっていくでしょう。

あとは、人事制度や採用も本社人事がすべてやるのではなく、外資系のように部署ごとに人にまつわることを考える世界観に寄っていくと思います。そうした状況では、専門部署以外の事業部の方がサクッと使えるツールが重要になっていくと思います。

内田 壮 氏 2枚目画像

岡本:今までは「人事部が決める」ことが通例でしたが、事業部など現場レベルで柔軟にかつ正当に人事管理を行うという発想ですね。

内田:ツールにそういう機能が求められているのかなと思います。

岡本:なるほど。最後に、今後カオナビHRテクノロジー総研がワークフロー総研と一緒に取り組みたいテーマなどはありますか?

内田:3つほど共同調査をしてみたいと考えています。まず一つ目は、バックヤードのシステムはどのようにあるべきなのか、あって欲しいのか、それらの実態調査です。このような調査は意外と世の中にないので考えてみたいです。ワークフローという切り口は、いろいろなシステムと連動して使えそうな価値をもっているので可能性を感じています。

二つ目は、業務の非効率原因に関して調査し、洗い出していくのも面白いと思います。同じことは書かせないとか、よくわからない承認者とか、欲しい情報が見つからないとか、書いてあることの意味が分からないからわかりやすく書いてとか。何がもったいない非効率ポイントで、何が業務効率を下げているのか?といった部分ですね。三つ目は、通る稟議書と通らない稟議書の違いです。

岡本:稟議書テーマは深いですね。根回しや、その人のキャラやコミュニケーション能力の問題かもしれませんし。

内田:人事評価が高い人は誤字脱字が多い稟議書でも通りやすいとか、一方、人事評価が低い人はちゃんと書いても通らないとか、そういう仮説はあるのかなと。

岡本:面白い視点ですね。ワークフローは業務プロセスの流れ、HRは人。そしてワークフローは人に紐づいているという関係性で、単体でできないことができると思いました。ワークフローと人材に共通した二つの要素、共同で行う調査などをぜひやりたいと思いました。今日はありがとうございました。

集合写真
ワークフロー総研 編集部
この記事を書いた人 ワークフロー総研 編集部

「ワークフロー総研」では、ワークフローをWork(仕事)+Flow(流れ)=「業務プロセス」と定義して、日常業務の課題や顧客の潜在ニーズの視点からワークフローの必要性、重要性を伝えていくために、取材やアンケート調査を元にオンライン上で情報を発信していきます。また、幅広い情報発信を目指すために、専門家や企業とのコラボレーションを進め、広く深くわかりやすい情報を提供してまいります。

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