15年以上前から行われる島根県のデジタル化の現在地と展望 デジタル庁で期待される自治体のデジタル化
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本記事は、島根県 東京事務所の本田 勝己所長と、島根出身であり同県の遣島使(県外での島根県のPRが役割で、遣唐使にちなんで命名されたふるさと親善大使の島根県版)も務めるワークフロー総研 所長 岡本の対談をまとめたものです。
デジタル庁構想など行政のデジタル化が大きな話題となる中、島根県の取り組みを聞くとともに、行政における課題や展望などを語りました。
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15年以上前から電子決裁の取り組みが開始
岡本:本日はよろしくお願いします。私自身、ふるさと親善大使の島根県版である遣島使として活動させていただいております。
デジタル庁や脱ハンコなど、2020年は行政のデジタル化について大きな動きが見られました。
そこで、私の出身でもある島根県の取り組みをお伺いしたく、本日お時間をいただきました。まずは、デジタル化に関する島根県の取り組みについて教えてください。
本田:よろしくお願いします。県レベルで言えば、内部の承認フローである電子決裁と住民のみなさまが行う行政手続きの電子化が中心になります。
電子決裁というのは、企業で言えば、稟議の電子化のことを指しています。紙に出力することなく、システム上で稟議が可能となります。
島根県が電子決裁を最初に導入したのは平成15(2003)年です。ただ、当初は職員の利用率が低かったため、一時中止をしました。
その後扱いやすいシステムに進化させ、今の形になったのは平成26(2014)年からです。
岡本:当初は使う人が少なかったんですね。現在の利用率はどれくらいですか?
本田:電子決裁の代表的なシステムは「総合文書管理システム」というのですが、島根県の全庁の電子決裁率は、まだ5.3%と少ない状態です。
しかし、東京事務所は10月でみると50%。今年度を通してみると52.5%と、半分程度が電子決裁となっています。
また、島根県庁の各課単位、もしくは地方事務所の単位でみると100%のところもあります。場所等によって利用率に大幅な差があり、これを平均すると5%強になるということが実態です。
岡本:電子決裁率を向上させていくには何が大切とお考えでしょうか?
本田:職員自身が、電子決裁に対してどのようなメリットがあるのかを理解し、まずは使ってみようという意欲をもつことが大切です。
特に上司がメリットをきちんと浸透させられるかがポイントです。
東京事務所は私が所長ですが、実体験で申しますと、電子決裁により課題解決が図られるというメリットが目に見えるかがカギだと思います。
私の場合、紙による決裁の課題に対する意識はコロナ禍以前からあり、2019年からは繰り返し電子決裁の重要性を伝えてきました。
電子化は検索性向上とペーパーレスが大きなメリット
岡本:例えばどういったメリットが挙げられるでしょうか?
本田:例えば、住民の方からの情報公開請求などのときに、前任者の書類が後から容易に検索できる点は大きなメリットです。
また、自治体には保存しなければならない書類がたくさんあり、ペーパーレス化が進むことで収納スペース問題の解決になります。
岡本:検索性とペーパーレスが大きなメリットということですね。休暇や出張、購入などに関する、申請に対する承認業務に関する電子決裁比率はいかがでしょうか?
本田:それらは100%電子化されており、前述の5.3%には含まれていません。申請と稟議は別で管理しています。申請には、出張や休暇申請などがあります。
岡本:申請は100%なのですね。話を稟議に戻しますが、電子決裁の浸透は、徐々に慣らしていくというプロセスなのでしょうか?
本田:はい。文書検索の速さやペーパーレスなど、メリットを伝えながら少しずつ利用してもらいます。
また、島根県と東京事務所など、離れた場所のやりとりではやはり大きなメリットがあることは事実です。
島根県は介護や子育ての面で在宅勤務を取り入れていますが、これら働き方の柔軟性を実現するためには電子決裁は欠かせません。
島根県全体においても、よりメリットが見えやすくなると考えています。
岡本:メリットを本人が実感するかということがポイントですね。
本田:そうですね。利用者にメリットがなければどのようなものでも普及しません。
電子決裁には多面的なメリットがありますが、利用率が上がらない理由のひとつはメリットを伝えきれていないことにあります。
伝えきれてないため、本人のメリットの体感値が低くなっているのかもしれません。
この点は、急速に進めていくというよりも、柔軟に進めようというのが島根県の方針です。
例えば、役所内で協議を進めていく中で、最終手続きは記録を残す意味で電子決裁にすることや、添付資料などの紙が大量にある場合には決裁だけ電子で行い、添付資料自体は紙で保存しておく、というケースもあります。
岡本:記録を残すというのは大事な観点ですね。
本田:あとは、電子化すれば、不祥事やヒューマンエラーの防止にもつながります。
住民の方との書類の収受を電子で受け付けて、最終処理まで行えば、記録が残ります。
なお、住民の方からの書類収受のシステムは新たにリニューアルを予定していて、職員の意見を聞くなどしてより使いやすいように開発中です。
岡本:効率化を求める企業でも、中小企業のなかには電子化やDX(デジタルトランスフォーメーション)があまり進んでいない会社も存在します。
そのような中、島根県は休暇や出張申請などの手続きは電子化率100%ということですし、電子化に取り組み始めた時期も早いと思います。
電子決裁の対象である「統合文書管理システム」では、決裁以外の仕組みはあるのでしょうか。
本田:はい、あります。総合文書管理システムは文書の収受や供覧、保存した文書の検索の機能もあり、例えば、供覧であれば報告文書なども見られます。
もちろん、決裁が来ているかどうかもわかるようになっており、便利なシステムになっています。
122の住民手続きが電子化。利用率向上には住民への周知が課題
岡本:ありがとうございます。それでは次に、住民サービスの観点での電子化の実態を教えてください。
本田:住民の行政手続きも、「電子申請サービス」で脱ハンコを進めています。島根県では平成16(2004)年からやっていますが、周知はまだまだこれからですね。
現在、島根県には122の手続きに電子申請サービスを使っていますが、その利用率が令和元年度で11.7%。平成30年度が12.1%で約1割強になっています。
この率を上げていき、手続きの電子化の数を増やしていくことが課題です。
岡本:デジタル庁の動きに伴って、利用率は上がっていくのではないかと思います。
本田:住民サービスの向上として、各課の手続きの見直しや住民の方へのヒアリング調査のようなものを行っているのですが、これらを洗い出し、現在122の手続きが電子申請サービス化していますが、より多くの手続きを電子化していくということ。
また、それとともに、住民への電子申請サービスの周知も促すということが利用率上昇のカギだと考えています。
岡本:住民サービスが電子化すると、行政の方々の業務は効率化するのでしょうか?
本田:大きな点だと、集計は効率化します。特に税金関係は集計が大変なため、ここが電子化すれば大幅な効率化につながると思います。
島根県は東西に長いうえ、隠岐などの離島がありますから役所までの移動が大変です。
電子申請サービスを利用するかどうかの判断は住民の方に委ねられますが、私たちとしては電子で利用できる体制作りが大事だと思っています。
岡本:住民サービスの電子化はいつごろから動き出したものでしょうか?
本田:最初の導入が平成16年なので、検討などはその数年前でしょうね。
少しずつ対象の手続きを増やして現在が122ということです。
しかし、電子はお年寄りには扱い使いづらいという面もありますし、あまりデジタルに寄りすぎるとかえって不便になってしまう方もいらっしゃいます。
高齢化という状況もありますし、丁寧に対応していくことが欠かせません。
岡本:確かに、操作に不安がある方やセキュリティに不安を持っていらっしゃる方もいます。
本田:はい。電子の仕組みは用意したうえで、従来の申請方法も丁寧に行うことが求められています。
あとはマイナンバーカードの活用を行い、電子での本人認証をできるだけ簡素化することや、添付書類を少なくするなどで電子申請のハードルを低くし続けることが大切です。
岡本:私たちが行った自治体職員向けのアンケート調査(2020年10月発表)によると、自治体職員の57.7%が稟議や申請、承認業務を紙ベースで行っており、また75.3%が脱ハンコを望む結果となりました。こちらはどうお考えでしょうか?
本田:電子の仕組みがあるのに使っていないのか、そもそも電子の仕組み自体がないのかどうかという点は気になりますね。あとはもちろん、数字の結果は、自治体にもよります。
県と市町村では住民サービスの手続き数も違い、市町村の方が圧倒的に多い手続き数であるため、回答者は市町村の自治体に勤める職員なのかなと思っています。
紙の量が多ければ、すべてを電子決裁にするよりも、手続きは電子決裁にして説明は紙で事前に済ませておくなど、そういった工夫があると状況は改善し電子化が進むと思います。
岡本:では、デジタル庁新設の動きに対して、どう捉えていますか?
本田:現在、島根県など個々の自治体の中では電子化が一定程度進んでいても、国の省庁とやりとりするときに、中央省庁からメールやFAXを要求されるということがあります。
省庁と自治体の連携において、電子化されることが望まれます。
Web会議は5年前から取り組み開始。離島や東西に長く移動の困難さがきっかけに
岡本:中央省庁と自治体の連携にも課題があるんですね。働き方についての質問ですが、この機会にWebで会議するなどの動きは増えましたか?
本田:実は、Webで会議はコロナ禍になる前から始めていました。
というのも、県内にそれぞれ県の地方機関があって、たとえば隠岐から松江には船で出張しなければいけないのですが、そういったことはなるべくやめようということで、Web会議を取り入れました。
その取り組みが4~5年前から行われています。
岡本:早いですね。確かに、移動に負担がかかるという観点は重要です。
首都圏は交通機関の本数も多いので、対面コミュニケーションが前提になっており、そういう意味ではWeb会議の浸透は遅かったとも言えます。
本田:そうかもしれません。島根県では必要に迫られて実施し、まずは保健所からはじめました。
岡本:お話をうかがって、企業も参考にできることがたくさんあり、得られるものも多いと感じました。最後に、今後のデジタル化への期待や展望を聞かせてください。
本田:今後の行政サービスを進めるためには、デジタル化がやはり必要です。
また、特に中山間地域の少子高齢化が進んでいる地域では、デジタル化を進め、教育や福祉、医療サービスに活かしていくという大きな期待があります。
もちろん、高齢者の方などには丁寧に対応しながら進めないといけません。バランスを意識しながらデジタル化を進めていきたいと考えています。
岡本:そうですよね。住民サービスはすべての人がお客様ということに気づかされました。企業で言えば、自社のクライアントのことを考えて機能を追加したりしますが、ここには効率性の観点が強くあります。住民サービスは「全て」の方が対象。大きな違いです。
本田:住民サービスは、役所の都合で決めてはなりません。利用される方からはさまざまな声をいただきますし、取り入れるべき点は多く存在します。
ただ効率だけを求めていては行政サービスの場合は格差が生まれてしまうため、そのバランスが重要です。
道路や橋など、使用頻度は少ないとしても、使う方がいるのであればしっかり管理することが大切です。
誰かのために欠かせない、この機能によって守られる人がいるのであればそこには意義があります。
岡本:本日はたくさんの学びがありました。ありがとうございました。

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<対談者プロフィール>
島根県 東京事務所 所長
本田 勝己 氏
東京事務所では、関係省庁等に対し島根県等が提案・要望活動等を行う際の連絡調整や情報収集、東京島根県人会・東京島根経済クラブの事務局業務、観光振興・県産品物販・定住促進、企業誘致などを行っている。
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ワークフロー総研 所長
岡本 康広
ワークフローシステムを開発・提供するエイトレッドの代表取締役社長も務める。
ワークフローを出発点とした働き方の見直しが意思決定の迅速化、組織の生産性向上へ貢献するという思いからワークフローの普及を目指し2020年4月、ワークフロー総研を設立して現職。エイトレッド代表としての知見も交えながら、コラムの執筆や社外とのコラボレーションに積極的に取り組んでいる。
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「ワークフロー総研」では、ワークフローをWork(仕事)+Flow(流れ)=「業務プロセス」と定義して、日常業務の課題や顧客の潜在ニーズの視点からワークフローの必要性、重要性を伝えていくために、取材やアンケート調査を元にオンライン上で情報を発信していきます。また、幅広い情報発信を目指すために、専門家や企業とのコラボレーションを進め、広く深くわかりやすい情報を提供してまいります。