5年後には誰でもデジタルロボットを使いこなす世界に RPAとAIが人の可能性を最大化する
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本記事は、RPAのグローバルリーディングカンパニー・UiPath株式会社 代表取締役CEOの長谷川 康一氏と、ワークフロー総研 所長 岡本の対談をまとめたものです。
RPAの最新情報をはじめ、AIとITの未来、またRPAとワークフローが組み合わさることによりどのようなシナジーを生むのか、などを語りました。
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リモートワークの先に自動化がある
岡本:今日はよろしくお願いします。社会的な需要が増す中でコロナ禍となり、自動化はますます注目度が高まっている分野だと思います。コロナ以前と以後で、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)に対する問い合わせの量や内容に変化はありましたか?
長谷川:よろしくお願いします。まず、いわゆるRPAとは、PC上で行われる業務プロセスや作業を、人に代わって自動化する技術のことを指しています。RPAはAIや既存のアプリケーションと連携して会社レベルでの自動化を可能にします。
具体的な話に入る前に、まず社会全体の流れからお話します。コロナを経て要求されることは、新しい生活様式の中で健康と安全を守りながらの経済成長です。
企業にとっては社員一人ひとりの健康と安全を守りながらビジネスを成長させるという、新しい大きなチャレンジが与えられたのかなと思います。その中で、菅総理がデジタル庁の新設を指示しデジタル化の流れがさらに加速すると思います。
岡本:はい。政府自らが率先して変えていかなければいけないという姿勢ですよね。
長谷川:日本の慣習上、自動化を妨げてきたものが紙と印鑑の文化。稟議を紙で回して印鑑を押さないとビジネスが進まないというマイナス面が大きくクローズアップされました。
とはいえこの問題は、官公庁や社会一般がこの慣習のままだということで、一企業が変革を行おうとするだけではなかなか進みませんでした。それがいま変わりつつある段階になりました。
岡本:はい。議論がどんどん盛んになってきています。
長谷川:自動化(デジタル化)の利便性は、頭では理解していても一度経験しないと分からないものです。紙の電子化だけではなく、身近なサービスも同様です。
例えば、オンラインフードデリバリーも今回を機に一気に認知が広まりましたが、それは実際に使った方が多く利便性を実感したからだと思うのです。
岡本:確かに。WEB会議などもそうですよね。
長谷川:はい、WEB会議についても僕の先輩にあたる、70代以上の方々からも使ったという声を聞きましたし、便利なことを実感したと言っていました。
今までは時間がかかるだろうな、やるにしても難しいだろうな、と思われていたものが身近になった中で、我々としてもRPAのリーディングカンパニーとしてやらなければいけないことがあると思っています。
岡本:リモートワークの先に、自動化があるということでしょうか?
長谷川:はい。WEB会議をやったとしても、それはまだ自動化ではありません。リモートワークによって通勤時間などの移動がなくなったとしても、劇的に生産性が上がるとはいえません。
やはりエンドtoエンドで業務をしっかりと見直し、業務をやめる、変える、そしてその後に自動化があり、その手段の1つがRPAです。その結果が生産性の向上につながるのではないでしょうか。
岡本:確かに、より業務効率や生産性向上に対してダイレクトに働きかけられるものがRPAですね。
長谷川:ありがとうございます。実際にイノベーションは起こりはじめています。行政であれば、茨城県様。同県はデジタル化に熱心で、UiPathのRPAも2年半以上前から導入しており、2018年1月にUiPathのカンファレンスを東京で初めて行ったときも、大井川知事に登壇いただきました。
コロナ禍においても、UiPathを活用した新型コロナウイルス感染症拡大防止協力金の支払業務効率化など、デジタル技術を使いこなしています。
岡本:茨城県ですか。つくば市はスマートシティの取り組みが盛んで、ロボットの街とも言われていますし、デジタルに熱心というのもうなずけます。
長谷川:茨城県様は、もともとは感染症対策のために自動化を行ったわけではありません。当初は、実証実験としてRPAによる教職員の出張旅費等の入力の自動化を行いました。出張旅費等のシステムへの入力項目は多く煩雑でしたので、この一連の仕組みが自動化されました。
その後、本格導入され、別の用途で作った支払処理用の自動化ワークフローと申請書類を読み込みデジタル化するAI-OCRを組み合わせて、今回のコロナにおける協力金の支払い業務の自動化をわずか1週間程度で構築したという話を聞きました。
結果、処理時間を80%削減することができ、圧倒的に早い対応ができたという結果につながりました。
岡本:行政が行ったということがさらに意義があると思います。企業の例だといかがでしょうか?
長谷川:企業例で挙げれば日清食品様です。備蓄商品の需要と、在宅で食事する機会が増える一方で、得意先への出荷案内業務は担当者が会社に行って対応しなければなりません。
そこには感染リスクが伴うわけです。しかし同社とは昨年10月ごろからUiPathによる自動化を始めました。そして今年のゴールデンウィークの直前に、在宅でも出荷案内業務を効率よくできるようにしないと難しいということになりました。
もともとはシステムから出力されるリストを得意先ごとにソートしてFAXするという紙ベースの手作業でしたが、これをRPAでリストを読み込んで得意先ごとに分割した上でPCからFAXを送る工程を1カ月程度で自動化したのです。こういった事例が広がってきています。
岡本:これからさらにシステム化を求める声はより多くなっていくと思います。
長谷川:課題のひとつが古い職務のスタイルであり、印鑑と紙に代表されるビジネス慣習です。いわゆる、昭和の働き方といわれるような職場制度も当てはまります。そして重要なのは人材です。
現場で一生懸命働いている従業員にパワーを与えられていない。例えば旧態依然のビジネス慣習、職場制度、システムの歪みを人間がエクセルで疲弊しながら補っている事実がないでしょうか?これは人が行うべき業務なのか?人にやらせるべき作業なのか?その問いかけがなされていると感じます。
RPAを使うことで新しいビジネスが生まれる
岡本:従業員にパワーを与えるとお話されましたが、一方で自動化によって仕事を奪われるという感覚をもたれる方もいらっしゃるのかなと思います。こちらに関してはどう捉えていますか?
長谷川:このストーリーは昨年9月にTEDxOtemachiでお話したのですが、例えば、旧約聖書で描かれているエデンの園には、アダムとイブの二人が存在します。イブがアダムに禁断の果実を食べさせ、知恵がつき、人間は服を着るようになりました。これで何が生まれたかというと、洗濯です。
これはけっこう単調な、繰り返しの大変な仕事で、昔は洗濯をする職業もありました。日本でも昔、お母さんなどが、冬の寒い日でも毎日たらいで冷たい水で洗っていましたよね。でも今は洗濯機があるから必要ない。
そしてだれも洗濯機をイノベーティブ(革新的)だとは言いませんよね。普通のツールなので。「洗濯機によって私の仕事が奪われた」という人もいません。
日本は優秀な人材が、事務作業にとらわれてしまう傾向があると思います。例えば、数字の集計をシステムが合計は出してくれるけど平均残高は出してくれないから自分で計算して集計するとか、クライアントの様式に合わせて違うフォーマットを手作業で対応しているとか。そういった作業を自動化しましょう、ということでまず始まったのがRPAです。
RPAの自動化が今から10年経ったときに、「あの作業を人がやってたの?信じられない」となると思います。つまり「かつてあの作業は自分がやらざるをえなかった」でも「その仕事をRPAに取られた」っていう人はいないのではないでしょうか?むしろ、RPAを使いこなす事で新しいビジネスが生まれていくのです。RPAは普通のツールになっているのではないでしょうか?
岡本:はい。新たなビジネスを生み出す機会がそこにあると思います。
長谷川:私たちはテクノロジーを使って自動化を支援し、時間を解放することができます。先ほどの洗濯機の話でいえば、洗濯機や冷蔵庫は女性を家事から解放して時間を生み出し、女性の社会進出を助け、ワークフォース(労働力、労働人口)と経済に多大な貢献をしたと言う研究もあります。
RPAも同様に、事務の仕事を解放していくものです。解放された時間をどう活かすかは、従業員一人一人と経営者の役割ではありますが、そのチャンスを生み出すのがRPAによる自動化なのです。
岡本:私も以前ロボットに関する仕事をしていたので、このテーマはよくわかります。そのときも、人はロボットに仕事を奪われるのではなく、自動化されると次は人がロボットを使う側、考えるほうに回るというステップですよね。
長谷川:そうです。もう一つはインディビジュアリゼーション(一人ひとりの異なったユーザーニーズに対応すること)だと思います。
今、検索やSNSに関しても、スマホの裏側には無数のコンピューターがつながっていて、AIが働いていて、そこでレコメンドをしてくれます。ただそのアルゴリズムを私たちは知りません。
それでいいのでしょうか?あるひとつの答えに全て従うのではなく、自らRPAのロボットを使っていくつもの検索結果から自分が判断し、欲しい情報を導き出す。自分で自分の運命をドライブすることも考える必要があるのではないでしょうか?
岡本:コンピューターも、その瞬間では計算する人たちの仕事を奪ったかのように見えたとしても、逆を返せばコンピューターを使いこなす人が増えたわけですよね。同じような流れを繰り返し、気付いていなかった仕事の領域がチャンスになるのではないかと思います。
長谷川:同感です。RPAの需要が増え、使いこなせる人材がどんどん増えてくるでしょう。そして、使いこなせる人に、より時間と創造的な仕事をする機会を与えられれば嬉しいですね。
岡本:今はまだ、限られた人しかポジションがないですけど、機会が与えられてスマホのように平等に扱えるようになれば、新しい発展の仕方があると思います。
長谷川:RPAの民主化ですね。5年もしたら、スマホを使うようにRPAを使いこなしていると。
岡本:RPAの民主化というのはわかりやすいです。こういったサイクルの過渡期が来ていて、それがRPAですよね。大きな革命が起きて、また数年後には当たり前になっているという。
長谷川:スパンが短くなり、加速されていく気もします。デジタルの経験者が増え、新しいデジタルネイティブが多くなっていくわけですから。
岡本:世代の入れ替わりもあるでしょうし、意思決定層の若返りも起きますよね。それも加速をうながす要素かと。
長谷川:本来は経験しなかったかもしれない、70~80代の方も今回デジタルを経験しました。そういう意味での若返りもあります。
また、今の10代とか、もっと若い幼児でも家でタブレット端末に触れていますよね。彼らが社会人になったとして、AIや、RPAのロボットを難しいとは言わないと思うのです。ただ、今の20~30代の社会人はそこに追いついていないと、新しい社会人から化石と言われるかも知れません。
ロボットが情報をトリガーにワークフローと結びつくことが必要
岡本:私が考えるワークフローとは、稟議や承認プロセスをデジタル化し、承認フローの中にノウハウを貯め込んでいって最終的に意思決定をうながすシステムだと思っています。
その意味では、社内のナレッジや歴史がワークフローに詰まっていて、イノベーティブなアイデアを生み出しコラボレーションを実現させると考えています。この、付加価値を上げる集合知がワークフローであり、顧客のベネフィットになると。
そこでいうと、RPAは自動化していく中で人のノウハウがロボットに移行されていくものなのかなと思います。そして、人はロボットを使いこなしたり、新しい企画を出したりする仕事が増えていきますよね。こういう時代だからこそ連携することでより効果が出せるのではないかと感じています。
長谷川:そうですね。RPAのプロジェクトは、RPAのロボットを作ることが目的ではないのです。ロボットをいかに使いこなして自動化し、人間のモチベーションを上げて、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めて、新しいビジネスを作るというのがやるべきことなんです。
さらに、最終的にはデジタルな人間(デジタル人財)を作る、もしくはそういう人間を生かす組織を作ると考えたときに、ワークフローもそのひとつなんですね。人間がいろんな情報をもって意思決定するためには、その意思決定過程において、色んな人が携わって判断するという仕組みですので、デジタル上のワークフローでオートメーションされれば、非常に強いと思います。
岡本:ありがとうございます。
長谷川:向いている方向はまったく一緒で、やりたいことも一緒です。RPAにAI、もしくはワークフローのような流れを付け加えて、人間がより人間らしい仕事をするため、またよりよい意思決定をするためのものだと思います。
岡本:御社ではRPAを使って業務改革をしながらワークフローも使って、お互いのいいところを生かしながら自動と人の判断をされていると思うのですが、その中の取り組みとして、今どういうことをやられているんですか?
長谷川:弊社では、テレワークを推奨していて、今は9割以上が在宅勤務です。そのテレワークの先の自動化を進めていて、一人一人がロボットを使いこなすことを目標にしています。可能性についていうと、ロボットが色んな情報をトリガーにして、ワークフローと結びつくことが必要です。
普通のワークフローは稟議があって、人がチェックします。でも稟議のトリガーはお客の毎月の売り上げが変わっていったらこういう提案を出すなどにセットできるとより良いですよね。
もしくはリニューアルの3カ月前にはこういう見積もり出すべきだとか。ワークフローは意思決定過程のプロセスをサポートしているものなので、そこのフローに必要な情報をRPAが提供して結合させると。
例えば、何かの承認があったときにそこに資料が付いていて、資料だけではなく、元のデータをロボットがとってくる、そんな世界が来ると思います。または、秘書が「ワークフローからこういう説明を受けています」とブリーフィングするときにロボットが情報を取ってくる、みたいな。
岡本:人の判断をサポートしてくれるということですよね。では最後に、2025、2030年ごろには、どのような働き方になっていて、どのような企業がそのポテンシャルを発揮していると予想していますか?
長谷川:A Robot for Every Personと言っているのですが、先ほど言われていましたが、スマートフォンを使う様に、RPAのロボットとAIを使いこなせるデジタル人財がどんどん増えてきます。
今使いこなせる人が5万人いるとしたら。これが100万人になっていくでしょう。
また、RPAがAI、デジタルのテクノロジーや既存のアプリケーション、IOTと繋がり自動化の範囲がより広くなります。すると、扱える人の数も増えると同時に、技術の質と範囲もより広がります。
そして、RPAとAIを交えた使い方がさらに新しく開発されることで、RPAとAIは日本を代表する大きなデジタル産業になっていくと考えています。
岡本:デジタル産業も拡大していくということですね。普及しているイメージも湧きます。
長谷川:一人一人がロボットを作るのではなく、使いこなす形になるはずです。
岡本:つまり、ロボットが人から何かを奪うということではないんですよね。AIと共存共栄していくという。
長谷川:共存して、新しいビジネスチャンスを作れるはずです。
岡本:はい。今日は私自身、たくさんのビジネスヒントがあると思いながら勉強させていただきました。ありがとうございました。
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<対談者プロフィール>
長谷川 康一 氏
アーサー・アンダーセン(現:アクセンチュア株式会社)、ゴールドマン・サックス証券株式会社のほか、ドイツ銀行、バークレイズ銀行など金融業界におけるテクノロジー、業務部門で要職を務め、海外でのマネジメントも経験。2017年2月に米UiPath日本法人の代表取締役CEOに就任。
ワークフロー総研 所長
岡本 康広
ワークフローシステムを開発・提供するエイトレッドの代表取締役社長も務める。
ワークフローを出発点とした働き方の見直しが意思決定の迅速化、組織の生産性向上へ貢献するという思いからワークフローの普及を目指し2020年4月、ワークフロー総研を設立して現職。エイトレッド代表としての知見も交えながら、コラムの執筆や社外とのコラボレーションに積極的に取り組んでいる。
「ワークフロー総研」では、ワークフローをWork(仕事)+Flow(流れ)=「業務プロセス」と定義して、日常業務の課題や顧客の潜在ニーズの視点からワークフローの必要性、重要性を伝えていくために、取材やアンケート調査を元にオンライン上で情報を発信していきます。また、幅広い情報発信を目指すために、専門家や企業とのコラボレーションを進め、広く深くわかりやすい情報を提供してまいります。