人的資本経営とは?意味や必要性、実践のポイントを解説!
- 更新 -
少子高齢化や新型コロナウイルス感染症の流行、デジタル技術の発展に伴う産業構造の急激な変化により、企業における「人材」の重要性が見直されつつあります。
そうしたなか、近年注目を集めている経営の在り方が「人的資本経営(じんてきしほんけいえい)」です。
しかし、
「そもそも人的資本経営とは?」
「なぜ人的資本経営が注目されているの?」
「人的資本経営に役立つITシステム・ツールは?」
といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、人的資本経営に焦点を当て、その概要や注目の背景、人的資本経営に効果的なソリューションを紹介します。
OUTLINE 読みたい項目からご覧いただけます。
人事総務、DX担当者様におすすめ!
サイボウズ株式会社人事本部長も登壇!
社員が働きがいを持ち「イキイキ」と働く環境を作れる様々な工夫と成功事例をご紹介いたします。
こんな人におすすめ
●職場環境や働き方の改善で従業員のモチベーションを高めたい
●スキルアップやキャリアパスの整備をしたい
●従業員のワークライフバランスを改善したい
人的資本経営とは?
人的資本経営とは、「人材」を重要な資本として投資を行い、その価値を高めることで企業の持続的成長につなげる経営手法を指します。
経済産業省では、人的資本経営について以下のように定義しています。
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の活発化や新型コロナウイルス感染症によるパンデミックなどの影響により、ビジネスを取り巻くあらゆる物事が目まぐるしく変化する現代、持続的に企業価値を高めていくために必要な概念として人的資本経営は注目を集めています。
人的資本経営が注目される背景
次は、人的資本経営が注目を集める背景として、ESGの普及や欧米および国内の動きをご紹介します。
ESGの普及
人的資本経営が注目を集めている要因として、ESGの普及が挙げられます。
ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(統治)」という3つの言葉の頭文字を取った言葉で、企業が持続的成長を図るうえで重要な観点とされています。また、近年はESGの観点から投資を行う「ESG投資」という手法も浸透しつつあります。
ESGの「Social(社会)」には、「ワークライフバランス」や「ダイバーシティ」といった人的資本に関わる要素が含まれています。
また、ESGの「Governance(統治)」には「適切な情報開示」という要素が含まれていますが、2018年にISO(国際標準化機構)が人的資本の情報開示に関する国際規格として「ISO30414」を発表するなど、ガバナンスの観点でも人的資本の情報開示が重要視されています。
人的資本の情報開示に関する欧米の動き
欧米においては、すでに人的資本の情報開示の動きが広まっています。
EU(欧州連合)では、2014年から非財務情報開示指令(Non-Financial Reporting Directive|NFRD)で「社員と従業員」の情報開示を義務付けており、2021年にはより詳細な情報開示ルールを定めた企業サステナビリティ報告指令案(Corporate Sustainability Reporting Directive|CSRD)を公表しています。
アメリカでは、米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission|SEC)が2020年8月に非財務情報に関する開示項目を変更し、一定条件を満たす上場企業に対して人的資本の開示を義務化しました。
人的資本経営に関する日本の動き
日本においても、人的資本に関する注目度が増してきています。
経済産業省が開催している「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の報告書、通称「人材版伊藤レポート」が2020年9月に公表され、この報告書のなかで人的資本の重要性が提唱されました。
その後、2021年6月には東京証券取引所がコーポレートガバナンスコードを改定し、上場企業に対して「人的資本や知的財産への投資に関する情報開示・提供」を求めました。
さらに、2022年5月には「伊藤レポート2.0」が発表され、2022年8月には伊藤邦雄氏(一橋大学CFO 教育研究センター長)を中心としたメンバーが発起人となり 「人的資本経営コンソーシアム」が設立されるなど、国内における人的資本経営に関する動きも活発化してきています。
「3P・5F モデル(3つの視点と5つの共通要素)」とは?
(画像出典元:ABOUT | 人的資本経営コンソーシアムWEBサイト)
先述した「人材版伊藤レポート 2.0」では、人的資本経営を実践していくうえで必要な「3つの視点(Perspectives)」と「5つの共通要素(Factors)」、いわゆる「3P・5F モデル」というフレームワークが提唱されています。
では、人的資本経営を実践するうえで意識するべき「3P・5F モデル」について詳しく確認していきましょう。
人的資本経営の3つの視点
人的資本経営を実践するうえで必要となる3つの視点について確認していきましょう。
人的資本経営の3つの視点
- 視点1.経営戦略と人材戦略の連動
- 視点2.As is - To beギャップの定量把握
- 視点3.企業文化への定着
視点1.経営戦略と人材戦略の連動
人的資本経営においては、経営戦略と人材戦略を連動させることが重要です。
経営戦略やビジネスモデルは企業によって異なるものであり、自社の経営戦略やビジネスモデルに適した人材戦略を検討・実行していく必要があります。
視点2.As is-To beギャップの定量把握
経営戦略と人材戦略が連動しているかどうかを判断するためにも、「As is - To beギャップ」を定量的に把握する必要があります。
自社の経営戦略およびビジネスモデルに基づき、人材ポートフォリオ(組織における人材の構成内容)の現状(As is)と理想(To be)を明確化し、そのギャップを解消するための計画およびKPIを設定します。
その際、PDCAサイクルを実行して計画およびKPIを継続的に検証・見直していくことも重要です。
視点3.企業文化への定着
企業文化は日々の事業活動を通じて醸成されるものであり、人材戦略を実行した先のアウトカム(結果)とも言えます。
そのため、人材戦略を策定する段階で目指すべき企業文化を見据え、KPIを設定して企業文化定着の進捗を検証していくことが大切です。
人的資本経営の5つの共通要素
次に、人的資本経営の5つの共通要素を確認していきましょう。
人的資本経営の5つの共通要素
- 要素1.動的な人材ポートフォリオ
- 要素2.知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
- 要素3.リスキル・学び直し
- 要素4.従業員エンゲージメント
- 要素5.時間や場所にとらわれない働き方
要素1.動的な人材ポートフォリオ
企業を取り巻く外部環境が激しく変化する現代においては、企業にとって必要な人材ポートフォリオも常に変化を続けます。
そのため、既存の経営戦略の実行や新たなビジネスモデルに対応するためには、自社にとって最適な人材ポートフォリオを維持する仕組み、つまり「動的な人材ポートフォリオ」が必要になります。
要素2.知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
企業が中長期的な成長を続けるには、多様な人材の掛け合わせによるイノベーションを創出することが重要になります。
そのためにも、さまざまな価値観や専門性、ノウハウを有する人材を取り込んで「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」を促進し、イノベーションが生まれやすい土壌を整えていくことが大切です。
要素3.リスキル・学び直し
企業を取り巻く環境の急速な変化に対応するには、従業員のリスキル・学び直しが重要です。
とくに近年では、組織のDXを牽引する人材(DX人材)の育成手法として「リスキリング」が注目を集めるなど、リスキル・学びなおしの重要性が高まっています。
従業員が主体的にリスキル・学び直しに取り組めるように、企業は環境やルールの整備を行っていく必要があると言えるでしょう。
要素4.従業員エンゲージメント
経営戦略の実行や新たなビジネスモデルに対応するためには、従業員が個々のパフォーマンスを最大限に発揮できる環境を整えることが大切です。
そのためにも、企業理念やビジョン、経営戦略の発信・対話を積極的に行い、従業員がやりがいを感じながら、主体的に働ける環境を整備していく必要があります。
要素5.時間や場所にとらわれない働き方
グローバル化やIT技術の発展、働き方改革の活発化などにより、人々の価値観やライフスタイルは以前よりも多様化しています。
また、昨今の新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、テレワークをはじめとした時間や場所にとらわれない働き方への注目度は高まっています。
こうしたなか、従業員が個々の事情に応じた働き方を選択でき、多様な人材が活躍できる環境を整えることが企業には求められます。
人的資本経営に取り組む企業事例
ここまでは、人的資本経営の概要や必要性、「3P・5F モデル」について解説してきました。
次は、経済産業省が公表している「実践事例集」のなかから、人的資本経営の企業事例をいくつかご紹介します。
(参照:実践事例集(METI/経済産業省))
KDDI株式会社の事例
KDDI株式会社は、事業部門経験者を人事トップに登用することで、経営層・事業部門・人事部門の密接な連携体制を構築。
事業戦略の観点から人材ポートフォリオの「As is-To beギャップ」を把握して人事戦略に役立てているほか、自律的なリスキリングに向けた育成体系を整備しています。
また、社員のエンゲージメント向上を図り、学生の意向に沿ったコース別の新卒採用や、通年採用・入社を開始。
2012年度から2021年度までの10年間でキャリア採用人数を約10倍に増加するなど、専門性の高い人材の確保にも成功しています。
花王株式会社の事例
花王株式会社は人材を会社の最大の資産と捉え、経営トップを委員長とする「人材企画委員会」を月次開催し、人材開発に関する課題や施策に関する議論、および進捗状況の共有を行っています。
また、「成長活性化制度」としてOKR(Objectives & Key Results)を導入。
社員のOKRをグループ全体で共有することで、社員同士が部署を超えて連携・成長していける環境を構築しています。
さらに、各部門・国内グループ会社人事、D&I推進部、各事業場人事が連携し、「D&I視点の人財開発」を推進し、多様な人材の登用と活躍を可能とする職場づくりに取り組んでいます。
キリンホールディングス株式会社の事例
キリンホールディングス株式会社は、食・医療の領域で培った強みを踏まえ、ヘルスサイエンス領域に参入を決断。
専門的な知識・経験を持つ人財の採用強化に取り組み、全採用者のうちキャリア採用者が占める割合を2017年度の16%から2020年度の40%まで高めることに成功しました。
また、従業員のエンゲージメントが企業jの持続的成長を実現するという考えから、エンゲージメントスコアを重要成果指標として設定。役員報酬においてもエンゲージメントスコアを反映しています。
さらに、人財のダイバーシティを推進するため女性リーダーの育成に注力しているほか、グループ内外の企業との人財交流や兼業・副業を推進しています。
人的資本経営の取り組みにワークフローシステムが効果的
次は、人的資本経営の取り組みに役立つソリューションとして、ワークフローシステムをご紹介します。
ワークフローシステムとは、組織内で行われる稟議や各種申請などの手続きを電子化するITシステムで、近年多くの企業で導入されています。
では、ワークフローシステムが人的資本経営の実践に役立つ理由を見ていきましょう。
/
サクッと学ぼう!
『1分でわかるワークフローシステム』
無料ダウンロードはこちら
\
業務の流れを可視化
ワークフローシステムを導入する際は、社内で行われている業務を見直し、整理する工程が発生します。
これにより、社内で行われている業務について「誰が」「どのタイミングで」「何をするのか」という一連の流れがシステム上で可視化されます。
これにより、人材ポートフォリオの現状(As is)が明確になり、「As is-To beギャップ」の継続的な把握・検証も行いやすくなるでしょう。
業務効率化・コスト削減
ワークフローシステムを導入して稟議・申請を電子化することで、業務効率化が見込めます。
たとえば、印刷・押印の手間や、記入ミスによる差し戻し、手渡しによる回覧や承認者不在による待ち時間などが解消され、紙ベースの業務で発生していた作業工数を削減することができるでしょう。
また、書面の印刷や拠点間の輸送といった作業が不要になるため、ペーパーコストの削減にもつながります。
こうして削減した工数やコストを、「動的人材ポートフォリオ」を実現するためのシステム投資に充てたり、「リスキル・学び直し」のための予算を拡充したりすることで、人的資本経営の推進に役立てることができるでしょう。
ナレッジの蓄積・共有を促進
ワークフローシステムの導入により、ナレッジの蓄積・共有を促進することが可能です。
ワークフローシステムでの申請・決裁では、起案内容に対して関係者がコメントを追記することができるため、社内のナレッジを結集した意思決定が可能になります。
また、過去の意思決定に関するデータはシステム上に蓄積され、必要に応じて検索・参照することが可能です。
蓄積したデータは個別に閲覧権限を設定することができるため、セキュリティ・ガバナンスに配慮しつつ、社内でのナレッジ共有を促進することができるでしょう。
柔軟な働き方を促進
紙媒体で稟議・申請業務を行っている場合、書類の印刷や押印、手渡しによる回覧など、オフィスにいなければ遂行できない作業が多々発生します。
一方、ワークフローシステムを導入することで、ノートPCやスマートフォンで稟議・申請業務を完結することができ、テレワークなどのオフィスに縛られない働き方に対応することができます。
そのため、人的資本経営の共通要素である「時間や場所にとらわれない働き方」の促進だけでなく、「従業員エンゲージメント」の向上にもつなげることができるでしょう。
まとめ
今回は人的資本経営に焦点を当て、その意味や注目を集める背景、「3P・5F モデル」などの情報を解説してきました。
ビジネス環境が目まぐるしく変化する現代、企業にとって人材の重要性は一層高まっており、持続的成長を実現するには人材の価値を高めていくことが必要不可欠です。
これから人的資本経営に取り組みたいと考えている企業は、今回ご紹介した情報も参考にワークフローシステムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
もっと知りたい!
続けてお読みください
人事総務、DX担当者様におすすめ!
サイボウズ株式会社人事本部長も登壇!
社員が働きがいを持ち「イキイキ」と働く環境を作れる様々な工夫と成功事例をご紹介いたします。
こんな人におすすめ
●職場環境や働き方の改善で従業員のモチベーションを高めたい
●スキルアップやキャリアパスの整備をしたい
●従業員のワークライフバランスを改善したい
「ワークフロー総研」では、ワークフローをWork(仕事)+Flow(流れ)=「業務プロセス」と定義して、日常業務の課題や顧客の潜在ニーズの視点からワークフローの必要性、重要性を伝えていくために、取材やアンケート調査を元にオンライン上で情報を発信していきます。また、幅広い情報発信を目指すために、専門家や企業とのコラボレーションを進め、広く深くわかりやすい情報を提供してまいります。