これからの働き方を考える

稟議とは生産性のレバレッジ最大化を実現する、一石三鳥の特効薬

稟議とは生産性のレバレッジ最大化を実現する、一石三鳥の特効薬

前回は稟議の歴史に触れながら、経営と現場をすり合わせるためのシステムやツールとしての稟議の話をしました。

今回は仕事の生産性を観点に、より具体的に稟議のメリットや効果について論考していきます。

前回の記事はこちら

過去の成功と国民性に学び、現代日本に必要な稟議の姿を考える

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生産性を上げるために人を巻き込む仕組みが稟議である

個人や組織の生産性を高めるためには、仕事の質や効率を上げることが大切になります。

では、それらをどのようにして上げていくのか。『What』と『How』の掛け算が肝要です。

『What』=「そもそも何をやるのか」、『How』=「Whatをどのように工夫して取り組むのか」が生産性に直結します。

『What』を決めるためには、何が目的なのか、どんな課題があるのか、課題を解決したら何がいいのかなど、考える事項が多く存在します。

What自体の方向性が誤っていれば、質が高い仕事はできません。Whatを決めるための時間は非常に大切です。

私自身、多くの事業開発や経営コンサルティングを行ってきましたが、このWhatの決定に有益なツールとして『稟議』を推奨しています。

稟議とは、組織において、What決定のための思考や意思決定プロセスをフレーム化し、議論するための道筋をガイドするものです。

稟議によりWhat決定までの時間が短くなるのです。また、会社組織で生産性を上げるためには、自分以外のヒト・モノ・カネを使って巻き込むプロセスが欠かせません。

これらを巻き込むためには、関係者からの承認が必要です。この承認の仕組み、すなわち巻き込むプロセスを内包しているものが稟議という仕組みなのです。

稟議での承認は、関係者が確認・同意を行ったことを示すエビデンスとなります。稟議承認後は、関係者へのアクションやサポートの依頼がしやすくなります。

以前、私は映画会社の企画製作部門に所属していましたが、映画製作といった大きなプロジェクトを動かす際、部門長や代表取締役など役員のほか、宣伝や劇場営業など各部門の関係者を巻き込むことが必要でした。

そこで『稟議』です。プロジェクトのスタート時、稟議で承認を得ることを起点として、全体の意思疎通を図っていくのです。

明示された意思の表出であるハンコ承認があることで、その後の物事を円滑に進めることができるようになります。

上述の映画会社は経営不振に陥ってました。理由は色々あるのですが、一つは稟議書の検討項目がアバウトであり、さらに作品量を追うあまり、稟議が形骸化していたことがあります。

私はプロジェクトを動かす経験から稟議の重要性を再認識し、この仕組みを実質的なものにしようと、稟議書のアップデートを企画しました。

映画会社の特徴として、一つの作品を世の中に出すためには、企画・資金調達・プロモーション・販売といった多くの検討事項と、その売上予測が必要になります。

従来の稟議書は作品企画や収支計画の検討項目が大まかでしたが、それぞれの項目をより具体的な検討項目とし、それらの評価を後からきちんと振り返れる形式としました。

一般的な稟議書というよりも、事業計画書に近い稟議書と言えると思います。

その結果、稟議書を通して担当者がより一本一本の作品に対し向き合うこととなり、作品量重視だった文化から、徐々に質重視へシフトするきっかけとなりました。稟議書を通して社内文化を変えることも可能なのです。

テレワーク時代にこそ稟議を活用すべき理由

コロナ禍で浸透したテレワークにはメリットも多いですが、一方で人を巻き込むプロセスが困難になっている側面もあります。

オンラインでは物理的接触がないため、体感覚が使えず、視覚と聴覚のみで情報を得たり、伝えたりすることになります。

つまり、対面よりも情報を得る・発信する量が少なくなります。会議でも場の全体の空気感を読みづらくなりました。

人を巻き込むために、例えば「タバコ部屋」と言われる場所などでのインフォーマルな根回しが昔から存在しますが、テレワークによってこのインフォーマルな根回しは事実上行いづらくなっています。

そこで重宝するのが、フォーマルに人を巻き込める『稟議』という仕組みです。

テレワークによって業務の細分化具体化が必要となり、業務プロセスの見直しを行っている企業も多いでしょう。

その中で、意思決定の仕組みを整備するのであれば、稟議という仕組みを活用すべきです。

まだ稟議の仕組み自体がない会社もあると思います。株式上場している訳でもないから、稟議はまだ必要ではないという企業もあるでしょう。

しかし、上述のテレワーク時代を勝ち抜く意思決定の仕組みとして、『稟議』を検討することは経営を考える上で大事な要素のひとつになるのではないでしょうか。

もう一つ考えたいのは、テレワークというのは既存のリーダーシップが発揮しづらい環境であるということです。

対面のコミュニケーションではないため、五感でメッセージをつかむことも伝えることもできず、したがってこれまでのような一体感を生み出す難易度が急激に上がっています。

ここで懸念されることが、部下の士気や当事者意識の低下です。この課題をクリアできる仕組みのひとつが、自らが主体となり、関係者を巻き込める『稟議』です。

部下に稟議を起案することを推奨するのです。稟議とは、起案者が当事者意識を持つ仕組みでもあります。組織全体を強くしていくものが稟議であるといえるでしょう。

ルールや仕組みは、組織に安心と安定をもたらす

『稟議』のようなルールや制度・仕組みは、フレームがあることで思考や仕事の質を担保し、かつ、不要な作業を削減することで生産性を上げるものですが、もう一点重要な側面があります。

それは、これらルールや仕組みは、組織に安心と安定をもたらすということです。

ルールや制度、仕組みがないということは、いわば無政府状態であり、個人レベルでは何を行えばいいのかわからない、組織レベルでは誰に何をされているのかわからない状態になります。

とすると、個人も組織も、誰も何も信用できず不安になり、ともすると相互監視型社会となってしまいます。

ルールがあることで、個人レベルでは仕事の方向性が明らかとなり質と量ともに向上させることができる。

組織レベルでは安心と安定がもたらされることにより、より個人に仕事を任せ、自主性を育てていけるようになります。

ルールや制度は一定の窮屈さもつきまといますが、そこは組織での運用の工夫で、最適なバランスを見出していくことが重要です。

稟議の活用は生産性にレバレッジを効かせる一石三鳥の特効薬

冒頭で述べた通り、生産性を高めるには『What』と『How』の掛け算の考え方が必要です。

そのうえでよりレバレッジを効かせるためには、会社組織での仕事を『設計』と『運用』の2つに分解し、それぞれ考えることが重要です。

まず設計段階では、仕事の役割分担や業務フローを整理することで、「各社員はどのような仕事を誰と一緒に行うのか」と整理を行い、仕事の方向性を見定めること。

そして運用段階では、設計したものをしっかり駆動させること。これには3つの観点が重要です。

1つ目は『リーダーシップ』を発揮して組織のモチベーションを高めていくこと。

2つ目は問題が発生した際に、解決するための『マネジメント』を行うこと。

そして3つ目が『情報共有』です。各部署、現場、管理職、経営者層、それぞれ触れている情報は違います。

普段の仕事で一緒に動く訳ではないので、情報の共有に一工夫が必要です。この共有を行えてはじめて組織での正しい意思決定や一体感の醸成ができ、組織の生産性を上げる土台ができるのです。

『稟議』は運用段階の3つの観点、全てを満たしている仕組みです。起案者からの視点で見れば「これをやりたい」とリーダーシップを発揮して巻き込むプロセス。

承認者からの視点で見れば「なるほど。これがやりたいんだな」と把握し問題発生の想定を含めた、マネジメントのベースとなるプロセス。

そして、稟議書は書面でこれらを可視化し情報共有するプロセスでもあります。

稟議の活用は、組織での生産性向上において、レバレッジを効かせる一石三鳥の特効薬なのです。

テレワーク時代の今こそ、ぜひ『稟議』を活用して、個人や組織の生産性向上にチャレンジしてみてください。

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ワークフロー総研<br>フェロー<br>高森厚太郎
この記事を書いた人 ワークフロー総研
フェロー
高森厚太郎

一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事
東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。現在は数字とロジックで経営と現場をナビゲートするプレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFOとして中小・ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める。2020年9月にはワークフロー総研のフェローに就任。著書に「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」(中央経済社)がある。

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