「はんこ文化」をテーマに文部科学大臣賞を受賞した小学5年生が語る、はんことデジタル化のバランス
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本記事は、第23回「図書館を使った調べる学習コンクール」(主催:公益財団法人図書館振興財団)で「知ってる?? はんこってなんで押さなきゃいけないの? ~日本のとくべつな文化~」という作品が文部科学大臣賞を受賞した佐久間千那さんと、ワークフロー総研 所長 岡本の対談をまとめたものです。
佐久間さんがなぜはんこの研究をしようと思ったか、研究してどう思ったか、必要性はどう感じたか?などをインタビューしました。
「画像提供:公益財団法人図書館振興財団」
OUTLINE 読みたい項目からご覧いただけます。
<対談者プロフィール>
佐久間千那 氏
千葉県の小学5年生。4年生時の夏休みの自由研究で制作した「知ってる?? はんこってなんで押さなきゃいけないの? ~日本のとくべつな文化~」が、「調べる学習部門小学生の部(中学年)」文部科学大臣賞に入賞
■作品紹介
プールカードにはんこがないと入れないと先生から言われたことをきっかけに、はんこと印鑑の違いやはんこの歴史を調査。全54ページにわたる自由研究を約2ヶ月間で制作し、ネットでは「凄すぎて声も出ない」「その辺の卒論超えてる」などの称賛の声多数。
https://concours.toshokan.or.jp/wp-content/uploads/contest-data/230002/
ワークフロー総研 所長
岡本 康広
ワークフローシステムを開発・提供するエイトレッドの代表取締役社長も務める。
ワークフローを出発点とした働き方の見直しが意思決定の迅速化、組織の生産性向上へ貢献するという思いからワークフローの普及を目指し2020年4月、ワークフロー総研を設立して現職。エイトレッド代表としての知見も交えながら、コラムの執筆や社外とのコラボレーションに積極的に取り組んでいる。
親が名前を書くのではダメなの?という疑問がきっかけ
岡本:佐久間さん、初めまして。今日はよろしくお願いします。まずは「はんこ」について研究しようと思ったきっかけから教えてください。
佐久間:初めまして。よろしくお願いします。きっかけは、学校のプールに入る際「プールカード」というものに親のはんこが押されていないと入れないという疑問です。
ほかに、学校のお便りでも同じなのですが、親が名前を書くのではダメなのかなって。
岡本:身近で感じた不思議がはじまりだったんですね。
佐久間:はい。なんでそんなに大切なのだろう?って。苗字を記すことは同じなのに、なぜはんこを押さなきゃいけないのかな?という点が不思議でした。
岡本:研究してはんこについてどう思いましたか?
佐久間:はんこ文化は7,000年も昔に、遠いメソポタミアで生まれたそうですが、この文化が今も残ってる国は、日本と台湾だけということが大きな発見でした。
それがずっと続いているのは、はんこを必要とする書類が法律で決まっていて、紙の書類を使う仕事や法律をすぐ変えられない、紙での仕事がたくさんあるから、というところが一番面白かったです。
岡本:世界の歴史まで調べられたんですね。着眼点も素晴らしいの一言です。では調べてみて、はんこの必要性についてどう感じましたか?
佐久間:最初は、はんこって要らないんじゃないかな?って思っていたんです。でも調べていくうちに、はんこを押すことははっきりとした意思表示なんだなということがわかって、はんこは改めて必要だと思いました。
岡本:はんこと印鑑、そして歴史などを調べていくうちに一番大変だったところはどこでしたか?
佐久間:日本と台湾しかはんこ文化が残っていないという歴史や文化に関するところですね。そこについて詳しく載っている本がどこを探してもなくて、県立図書館にもなかったので。一番つまづいたのはその部分ですね。
岡本:最終的にはどうやって解決したんですか?
佐久間:結局、本は見つかりませんでした。でも、インターネットではんこ文化について調べてみると、日本のはんこ文化がなぜなくならないのか?と、私と同じような疑問をもっている人が多く、色々な記事がアップされていて、ひとつの糸口になりました。
岡本:調査力もすごいですね! あと、佐久間さんの研究を読むと「私の予想は」と、必ず自分の予想を考えて調べていってますよね。普段もこのように考えているんですか?
佐久間:はい。そうですね。
岡本:仮説からちゃんと立てて、結論を導き出すということがしっかりできているところも素晴らしいです。また、もくじがありますが、この順番は調べた順になっているんですか?
佐久間:いえ、調べた順番がもくじの通りというわけではありません。この順番にまとめたほうが読みやすい、わかりやすいと思ったんです。
岡本:なるほど、ただただ感心させられますね。ところで、今回の作品は54ページにもおよぶ大作になっています。どのくらいの期間で仕上げたんですか?
佐久間:夏休み期間の7月から9月まで、2カ月ぐらいで仕上げました。
岡本:ボリューム的にも内容的にも、とてもよくまとまっている作品で、なかなかなここまでできる方は少ないと思います。やり切れた理由は興味があったからですか?
佐久間:ありがとうございます。疑問からわかっていくのが面白かったり、書くのとかまとめるのとかがもともと好きだったので、やっていけたのかなと思います。
岡本:作品を読むと、お父さんの会社の方を中心にアンケートを取って、内容の裏付けにも使っています。アンケートを取ろうというアイデアは、どのように思い付いたんですか。
佐久間:これはお母さんにアドバイスをもらって、アンケートを取った方が面白くなりそうだね、ということでやることにしました。
岡本:そうなんですね。あと、興味があるので伺いたいのですが、去年は「はんこ」でその前はどんなテーマの研究をしましたか?
佐久間:そうですね。1年生の時は鬼、2年生では手ぬぐい、3年生はキノコに関して調べて研究しました。
岡本:それぞれ面白いテーマですね。では本題に戻ります。ニュースではんこのことが流れることもありますが、今回の調査をきっかけに興味を持つようになりましたか?
佐久間:そうですね。TVとかではんこが特集されていると、「あ、はんこだ」ってじっくり見ちゃうことはあります。
岡本:大人でも難しい分野の研究ですからね。作品を読むと、はんこは同意したことを示すものだと結論付けていますが、これは私たちの仕事であるワークフローと一緒です。
ほかに、はんこを押すのに緊張したとか、インクがにじんだり朱肉に付けてきれいに押さないととか、大事なことをただ調べただけじゃなくて、書き手の気持ちも入ってるところもすごいと思いました。
親の承諾書は一種のワークフローである
岡本:ここからは、ワークフローについての意見や考えも聞かせてほしいので、まずは簡単にワークフローのイメージを説明しますね。
例えば、学校では担任の先生が教室で使っている文房具がなくなった時、直接お店に買いに行くのではなく、事務員さんにほかの教室の分とまとめて買ってくださいという意思を伝えるために、書類を記入して、はんこを押してもらう必要があるんですね。この行為を申請といいます。
ただ学校にもルールがあって、1,000円程度の安いものならすぐ買っていいけど、10,000円以上のものは学年主任の先生や校長先生のはんこが必要、などの決まりがあります。この決まりに沿って、申請書を次々に確認してもらうことをワークフローといって、書類を確認した人が、いいですよと認めることを承認といいます。
そして、会社なら社長、学校なら校長先生といった偉い人が最終的に承認をすることを決裁といいます。この申請書は学校内で使う書類なので、注文内容を注文書に書き写して文房具屋さんへ提出し、そこではじめて教室で使っている文房具を買うということになります。
そのうえで、佐久間さんの家庭内、学校内、友人とのワークフローと、いろいろな場面でワークフローがあると思います。身近なところでの具体例はどんなものがあると思いますか?
佐久間:ワークフローという言葉ははじめて聞きましたが、なんとなく意味が分かりました。学校でワークフローがあるとすれば、宿泊学級とかの親の承諾書ですね。
配られた用紙を親に見せて、はんこを押して提出して、担任の先生がそれを集計して、おそらく校長先生がチェックして業者さんに発注するという流れだと思います。
岡本:学校以外のシーンだとどうですか? お母さんにお願いするときとか。
佐久間:誕生日プレゼントとかは、私からお願いをしています。欲しいものを考えて、お母さんに言って、高いものだったらもうちょっと安いものにしてねって言われたこともあります。
岡本:実は却下され、再申請するまでの行為をワークフローでは差し戻しといいます。仕事でも、もう一度考え直してやり直すということはよくありますから。ちなみに、友だち関係では何か思いつくことはありますか?
佐久間:遊ぶ約束とかですね。友だちに遊べるかどうかを聞いて、友だち同士で親に確認して、家に行っていいかどうかとかの遊ぶ場所を決めるという流れです。
はんこを押すことで責任と自覚が生まれる
岡本:次はちょっと、スケールの大きい質問です。今回はんこを調べたうえで、これからどんな社会になっていったらいいなとかを考えたりしましたか?
佐久間:今のコロナで、はんこのために会社に行かなければいけないという問題が話題になる中で、紙とはんこをなくしてデジタル化しようという動きがありますよね。また、去年調べていく中で、様々な手続きをインターネットでしようという法律ができていたこともわかりました。
確かに、仕事の効率が大幅に上がることは良いことだと思います。でも、高齢の人たちにとってオンライン手続きは難しそうですし、はんこや紙を作る人たちの仕事が減ってしまうこと、はんこ文化そのものがなくなってしまうことも考えなければいけないと思いました。
岡本:作品の中でも書いてましたよね。
佐久間:社会を良くしていくためには便利だけではなくて、もっといい方法があるのではないかなとか、色んなやり方を考えていくことが大切だと思いました。
岡本:便利さだけでなく、今までの文化が持っていた意味も大事にするバランス感覚が必要ということですね。これから佐久間さんもはんこを押す機会が出てくると思いますが、研究してみて、はんこを押すときの気持ちは変わりそうですか?
佐久間:そうですね。はんこを押すことは、自分自身を本人であると証明したうえで、「確かに同意した」という意思表示であると知って、よく考えて押さなければいけないんだなと思うようになりました。
岡本:これから沢山経験できそうですね。あと、今回「ざんねんなオフィス図鑑」(ワークフロー総研共著)をお送りしましたが、すでに読んでいただいたと聞いています。読んでみていかがでしたか?
佐久間:ありがとうございます。イラストが多くて読みやすかったです。「ざんねんなオフィス図鑑」を読んでみて感じたことは、大人たちが実際にはんこや紙のために沢山の時間を使って仕事をしていることを知って驚きました。
こんな風にこのままずっと仕事を続けていたら、自分たちが大人になる頃も大変だなと感じます。私が調べた参考資料の中には、はんこを押すことによって、責任と自覚が生まれるとも書いてあり、私も自分のはんこを作ったんですけど、実際に押すときに緊張しました。
そういう気持ちではんこを押す習慣が日本人らしい文化のような気もします。ただ、はんこ文化も大切にしたいけれど、仕事の中でたくさんのはんこを使ったり、紙を使ったりすることは変えていかなきゃいけないことがよくわかりました。仕事がうまく進むように良い方法が見つかるといいなと思います。
岡本:そうですね。はんこ自体はまさに責任と自覚を感じるものではあるものの、それに伴って、とてもたくさん「紙」を使う必要が出てきます。紙があることで、出社しなければならなかったり、仕事に時間がかかったり、負担も多くかかることも事実です。
はんこと同じような紙文化として「手紙」がありますが、仕事ではほとんどがメールに置き換わり、さらに最近ではLINEのようなチャットに置き換わってきています。
一方で、まだまだ手書きの手紙にはとても力があり、ビジネス上でも「ここぞ」という時には力を発揮するツールです。
「はんこ」も「手紙」同様に、日本独自の文化をもったツールとしてデジタルと共存をしていくものになっていければよいと感じました。
本当に、今日はたくさんの素敵なお話をありがとうございました。
「ワークフロー総研」では、ワークフローをWork(仕事)+Flow(流れ)=「業務プロセス」と定義して、日常業務の課題や顧客の潜在ニーズの視点からワークフローの必要性、重要性を伝えていくために、取材やアンケート調査を元にオンライン上で情報を発信していきます。また、幅広い情報発信を目指すために、専門家や企業とのコラボレーションを進め、広く深くわかりやすい情報を提供してまいります。