意思決定スピードを急加速する電子契約、2022年には当たり前に
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本記事は、弁護士監修のもと日本の法律に特化したWeb完結型クラウド契約サービス「クラウドサイン」の事業部長、弁護士ドットコム株式会社の橘 大地取締役と、ワークフロー総研 所長 岡本が、電子契約とワークフローについて語った対談をまとめたものです。
コロナ禍によって“ニューノーマル”が叫ばれる今、社外との契約の電子化、そして社内での申請や稟議をはじめとするワークフロー全般に関する書類の電子化。双方が実現した先にある、働き方の未来について語りました。
<対談者プロフィール>
橘 大地 氏
弁護士ドットコム株式会社 取締役 クラウドサイン事業部長。2015年に弁護士ドットコム株式会社に入社。リーガルテック事業である電子契約サービス「クラウドサイン」の事業責任者を務めながら、投資先リーガルテック企業支援なども担う。
ワークフロー総研 所長
岡本 康広
ワークフローシステムを開発・提供するエイトレッドの代表取締役社長も務める。
ワークフローを出発点とした働き方の見直しが意思決定の迅速化、組織の生産性向上へ貢献するという思いからワークフローの普及を目指し2020年4月、ワークフロー総研を設立して現職。エイトレッド代表としての知見も交えながら、コラムの執筆や社外とのコラボレーションに積極的に取り組んでいる。
社会全体の意識改革が大きな前進だった
岡本:橘さんはコロナ前と現在において、ハンコに対する意識はどう変化していると感じますか?
橘:急激に変わりましたよね。企業にとって、これまで“いつか”だった契約の電子化への意識が“いますぐ”に差し迫ったことで現実化し、一気に進んでいます。数値で見るとクラウドサインの4月の前年比では、新規導入社数が約300%超えでした。
岡本:在宅勤務をせざるを得ない状況が、一気に到来しましたからね。
橘:以前から契約の電子化を推進する企業は少なくありませんでした。特にスタートアップなどは顕著です。ただしハンコの電子化は相手先の問題もありますから、先方が実物の書面や押印を重んじる企業であれば、今は書類に従わざるを得ない構図です。しかし、この状況が、コロナ禍による在宅勤務をきっかけに大きく変わりました。特に、大企業では急速に電子化の必要性に迫られました。電子化の実現には相乗効果が重要なので、社会全体の意識が変わったことは電子契約市場において、これまでにない変化だったと思います。
岡本:御社の導入社数が今年4月より急激に増えたというお話ですが、大企業のほうが多かった印象ですか?
橘:はい、大企業からのお問い合わせの比率の増加が多かったと思います。また、「明日の契約で使いたい」「来月から運用したい」など、検討フェーズではなく、直近での導入を検討する前提での問い合わせが増えました。
岡本:導入を前提に、気になっていることを知りたいということですよね。緊急事態宣言があった春と今とで、変化はありましたか?
橘:先ほど検討というお話をしましたが、大企業の本格導入はいよいよこれからではないかと思います。というのも、彼らの4~6月のテーマは、社員へのノートパソコンの配布や自宅の通信環境などインフラが中心で、次にワークフローの構築が伴うソフトウェアの選定です。
岡本:確かに、これまではハードウェアをはじめとする環境整備が論点でした。これらが整ったということで、いよいよ電子契約やワークフローだということは私も最近よく見聞きします。
橘:ワークフローの問い合わせに関しては、変化などありましたか?
岡本:ワークフローの場合は、単体での利用だけでなく様々なシステムとの絡みもあるので、大企業の場合はどうしても検討に時間がかかります。なので、問い合わせは増えていますが、どちらかといえば中小のほうがすぐに導入したいという引き合いは多いですね。
橘:大企業のワークフロー導入はもう少しあとになりそうだということですね。
岡本:いえ、とはいっても以前から検討されていた大企業はワークフローの優先順位が一気に上がり導入が早まったケースも多くなっています。
電子契約は2022年には当たり前になる
岡本:先日、クラウドサインにおいては、電子的な印鑑証明にあたる電子証明書のないクラウド上での事業者署名型の電子署名も法的に有効だと政府が認めました。これでさらに電子契約が広がっていくと思うのですが、どうお考えですか?
橘:過去をさかのぼると、ブレイクスルーがいくつかありました。20年前に、クラウドを前提としない電子署名法が制定されていますが、電子契約や電子署名の普及のために、今その解釈がより明確になろうとしています。
また、クラウドサインは今回法務省の求める電子証明書の要件を満たすものとして、クラウドサインで電子署名を施した添付書類が、商業登記のオンライン申請時に利用可能となりました。
岡本:素晴らしいです。そういったプロセスを経て、契約の電子化が一般化するタイミングはいつごろだとお考えですか?
橘:大企業の電子化がニュースなどで発表されることがこれからさらに増えていき、2021年には本格導入が一般化されていくと思います。そして、2022年には導入し終わっていて、むしろ大企業に関しては「まだアナログしか対応できていないの?」という逆転現象が起きてもおかしくありません。ワークフローはいかがですか?
岡本:ワークフローは昔からあるものであり、基幹システムに近いので、関心度も高かったかと思います。なのでブレイクスルーというよりは、使い方やログが残るコミュニケーションの仕方というふうに変わっていくのかなと。そこから、一部署で使っていたものが全社に広がる、とかですね。システムよりも方法論のアップデートになると思います。
岡本:先ほど電子契約には相乗効果が重要とお話がありました。2022年という近い未来での当たり前化するというのも、相乗効果が関係しているかと思います。これについて詳しく教えてください。デジタル化の旗振り役、入り口としての電子契約になってきていると感じます。どうお考えですか?
橘:先ほど相乗効果と申しましたが、電子契約は相手方の受け入れ率が重要です。いくら便利でも、相手方が使っていないから使えない、というケースもあります。この強烈な外部ネットワーク性のひとつが、契約におけるハンコだったのですが、いよいよ電子契約の波が広がり始めました。中には「当社は電子契約でなければ承認できません」という企業も出てきています。実物のハンコを押すということは、多くの企業がリモートワークに移行している状況にもかかわらず、ある意味出社を強制する行為ですから。
そういった観点で大企業の常識が電子契約になった場合、電子化していないことが非常識にあたると。今までの当たり前がひっくり返る、まさにオセロのようにパタパタと逆転する時期が2021~2022年ではないかと思います。
岡本:外部ネットワーク性とおっしゃっていましたが、電子契約サービスの競合はどうでしょう? 例えば、かたや「クラウドサイン」でも、もう一方は別の電子契約サービスである場合はそれでも使えるのか、それともどちらかに合わせる必要があるのか。
橘:どちらかを使う形になりますね。ここでの選定ポイントはサービスの信頼性と認知度、そしてセキュリティの高さになるかと。例えば最近話題のWEB会議システムでも、企業によって使えるサービスを社内ポリシーの関係で限定しているところはありますよね。
電子契約でいうと、セキュリティが脆弱な、安価なサービスではなく「クラウドサイン」で送り直してくださいといったことが実際に起こっています。セキュリティに投資しているサービスが選ばれるようになると思います。
岡本:堅固なセキュリティを築くことが、電子契約サービスの重要性だと。
橘:そうですね。セキュリティに力を入れ、信頼を獲得していきたいと思っています。
岡本:「クラウドサイン」の2015年の立ち上げから5年。潮目が変わったタイミングは今以外でありましたか?
橘:2019年に、三井住友フィナンシャルグループと合弁会社をつくり、「SMBCクラウドサイン」を設立しました。金融大手が導入するとともに、世の中をデジタル化するミッションのもと、傘下の地銀をクラウドサイン化するなど、我々ではリーチしにくかった銀行のネットワークを全国的に開拓できたというのは大きかったですね。
岡本:メガバンクですもんね。「クラウドサイン」のセキュリティに対する信頼感のあらわれだと思います。
橘:ワークフローシステムに関してのティッピングポイントはいかがですか?
岡本:ワークフローは過去というより今ですね。稟議や経費精算などが物理的に難しくなったことで、意思決定もできないということが身をもってわかったのではないかと。今までは、申請から承認まで1~2週間かかっていたスピードは当たり前だと思われていましたが、フローが滞ることで実感がされるようになりました。たかが申請書ではない、たかが稟議ではないということに気付いたという点が大きかったと思います。意思決定を行うためのスピードに関心が向かいました。
橘:時間短縮によるコスト削減はもちろんですが、意思決定のスピードアップによって企業競争力を高められると思いますね。契約に関しては、人・契約書の移動がなくなることで、直接会って契約することがないわけですから、アポイントの予定日調整が不要になります。結果、書類とハンコを用いている会社と電子契約の会社では大きな差が出てきます。
岡本:申し込みや回収といった営業の生産性も上がりますもんね。
橘:実際、NDA(秘密保持契約)の締結にアナログだと約1カ月かかるところを、電子であれば即日になるのでスピード感が格段に上がるとクライアントから聞きますね。
ハンコの根強さは説明コストがないこと
岡本:契約は非常に重要な法的行為であるからこそ、ハンコへの引力が強いと思います。やはり、“ハンコ信仰”のようなものが影響しているのでしょうか?
橘:私はハンコへの愛着やこだわりといった心理的なものは実際にはないと思っていますし、実際に現場でも聞くことはありません。ある意味“ハンコ信仰”は都市伝説なのではないかと。では、なぜハンコの引力が強いかというと、説明コストがないというメリットだと思います。
岡本:電子契約は説明して理解してもらうことにハードルが生じるということですね。
橘:「クラウドサイン」を例にすると、ハンコほど認知がされていない場合、なぜハンコではなく「クラウドサイン」なのかを社内に説明しないといけない。この理解を得ることが大変です。であれば不便ではあるもののハンコを用いて今まで通りに進行すると。管理職にとっては手軽であり、合理的な企業選択の中で、ハンコという文化が残っていったと考えています。
ゼロかイチかという議論であればデジタルのほうが便利なのですが、社会がハンコで回っている中でスイッチングコストがかかりますから、サービスとして優れているぐらいでは合理的な側面において選ばれません。圧倒的に優れていないと。それがいよいよ今、トランスフォーメーションのタイミングに来たと思います。
岡本:もう「クラウドサイン」の説明コストはかからない段階に来ましたもんね。
橘:SDGsの文脈も強くなってきました。これまでもペーパーレス化や社員のリモートワークについての見解などは、大手企業の場合は投資家やメディアに対して説明の必要性がありましたが、その風潮も変化し当たり前になってきています。
岡本:契約でも社内資料でも、物理的なハンコを使うことにより、どのような問題が起きているのでしょうか。具体的な場面とともに教えてください。
橘:物理的に移動が伴う場合、従業員の安全の保護といった問題がハンコの場合生じます。自社だけではなく取引先に対してもデジタル化を要請するということが、物理的からデジタル化するうえで重要かと思います。
セキュリティの脆弱性もありますね。ハンコは、「誰が、いつ押したか、改ざんされていないか」ということがわからないので、アクセス権限をもつ人だけが承認行為をできるという点ではデジタル化が重要だと思います。ワークフローも同じですよね。
岡本:ワークフローは社内向けのシステムなので、実印というより認印的なものですが、ログを取れた方がいいと考えれば、システムでログを取った方が確実です。
テレワークによる働き方改革は選択肢が増えるということ
岡本:多くの企業でテレワークが導入、進められており、働き方が変化してきています。契約が電子化することで、働き方はどう変わっていくとお考えですか?
橘:契約の電子化はあくまで手段で、意識してるのは選択の自由、ひいては自己決定権に関する側面です。テレワークによって、働き方の選択肢が増えたと思うんですね。企業でいえば、テレワークに振り切る会社もあれば、そうでないところもありハイブリッドもあります。
岡本:その選択肢が、デジタル化によって広がりましたね。
橘:従業員はそういった意思決定の方針にによって、会社を選ぶようになってくるとも思います。事実、テレワークを希望する人は多いですが、一方で、たまには直接社内コミュニケーションをとりたいから100%テレワークの会社では働きたくないという声も聞きますから。つまり、採用条件にテレワークに関する企業方針が加わり、重要視されるようになってくるはずです。そのカギを握るのが業務の電子化です。電子化していないとテレワークも導入できません。
岡本:人には性格のほかに、仕事の仕方に関しての向き不向きもありますからね。働き方だけではなく、仕事の進め方も変わっていくでしょう。これまでは課長、部長経由で承認をとっていたものが、専門知識を持った別の部署の人に意見を求めるなど横軸が加わって会議もWEBを介して横展開していく、みたいな。そのWEB会議を円滑にしていくものがワークフローなのではないかと思います。
橘:テレワークによってプロジェクトごとに働くスタイルが増えていくでしょうから、確かにそうですね。
岡本:外部とのコラボレーションももっと増えるでしょうし、社員でなくても重要な仕事を任される人たちも増えるでしょう。より組織が複雑化していくので、ワークフローは屋台骨として、ますます必要になってくると思います。
橘:現場が強い会社は魅力的ですし、今後いっそうプロジェクト型は進んでいくと思います。逆にPDCAを重視する日本型モデルや創業者オーナーが引っ張っていく企業も尊敬に値します。それぞれに魅力があるなかで、やはり働き方の選択肢も広がっていくでしょう。
岡本:電子契約が昔からあった中で、コロナ禍をきっかけに一気に変わったと思います。これは企業側をみてみると、ニーズや課題もコロナがきっかけで大きく変わったのでしょうか。
橘:時代が先回りしただけじゃなくて、日本全国で同時多発的に態度変容したのが大きかったと思います。クラウドサインは基本的に出社をベースにしつつ在宅で使うツールだったので、在宅勤務をするためにツールを導入するという論点はなかったですね。社員の生命安全保護のために導入というのは新しいし、全国で同じ課題を抱えるというのは潮目の大きさを感じます。
岡本:電子契約が注目される中で、おのおのワークフローの業務と電子契約の業務がつながることで、クライアントに対するメリットはどんなことがあると思いますか?
橘:つながる社会は必ず来ます。よく契約稟議サービスはやらないのかと聞かれます。普段使っている経費精算などの稟議と別に、契約内容承認の稟議のためにログインするのは不便ではないかなと。契約の稟議がワークフローの中に入って、そこから、クラウドサインとシームレスにつながるというタイミングは必ずやってきます。
岡本:前からお話はしていましたけど、取り組みたいですね。稟議を含めて「汎用ワークフローは何か」というときに、力になりたいなと。
橘:ワークフローはどんな進化を遂げていくのでしょう?
岡本:システムの進化というよりは、使い方が進化すると思います。ハンコを押して終わりではなく、スタートからゴールまでに知見を付加し、アイデアを集約できる集合知ツールに発展できるのではないかなと。最終的に、知見やログが溜まるからこそ、より良い意思決定ができるということの土台となると考えてます。
橘:私も振り返ってみると、最も承認しているのは社内稟議プロセスをログに残さない、例えば「これをメールで送っていいですか?」というメッセージに対してモバイルから「OK」と返すときが、一番ワークフローが機能しているなと実感します。
岡本:なるほど。いいヒントになりそうです。今日はお時間をいただきましてありがとうございました。
「ワークフロー総研」では、ワークフローをWork(仕事)+Flow(流れ)=「業務プロセス」と定義して、日常業務の課題や顧客の潜在ニーズの視点からワークフローの必要性、重要性を伝えていくために、取材やアンケート調査を元にオンライン上で情報を発信していきます。また、幅広い情報発信を目指すために、専門家や企業とのコラボレーションを進め、広く深くわかりやすい情報を提供してまいります。