データが死ぬ組織・生きる組織の決定的な違いとは ~バックオフィスがデータと組織の未来を左右する
- 更新 -
今や生成AIは、多くの企業にとって欠かせない存在になりつつあります。しかし、成果を決めるのはAIそのものではありません。その成否を分けるのは、データの整え方と、それを支える「組織の構造」にあります。
では、そのなかで「バックオフィス」は、どのような役割を果たすべきなのでしょうか。「バックオフィス」は、「情シス」でもなく、「現場」でもない間接部門だからこそ、生成AI活用とデータ整備の「要」を担う存在になっていくのです。データが生きる組織と、データが死んでしまう組織の分岐点はどこにあるのでしょうか。
覆面のAIコンサルタントであり、『会社で使えるChatGPT』(東洋経済新報社)などの著作を持つマスクド・アナライズ氏と、ワークフロー総研編集長の金本奈絵が対談しました。
\マスクド・アナライズ氏登壇/
バックオフィスDXカンファレンスAIをもっと活用するためにシステムと人財がともに進化する2日間
こんな人におすすめ
●AI活用を推進したいが何から手をつけていいのか分からない
●現場の関心を高めて全社的な取り組みに広げる方法が知りたい
●AIや最先端のテクノロジーの活用がしりたい方
OUTLINE 読みたい項目からご覧いただけます。
データを生かすか死なせるか、その境目にいるバックオフィス
――昨今、多くの企業が生成AIの活用促進に取り組んでいます。そうした活動のなかでバックオフィスが果たす役割について、お二人はどのようにお考えですか。
マスクド・アナライズ氏(以下、マスクド氏):生成AIにせよ、DX にせよ、データの整備が出発点です。しかし、組織の縦割りが、データの蓄積や共有を阻害している例は少なくありません。実際に、私がコンサルティング活動に関わるなかでも「現場が忙しくてデータの入力に協力してくれない」「必要なデータを収集するまでに時間がかかりすぎる」という声をよく耳にします。そう考えると、バックオフィスの役割は、部門や部署の壁を越えてデータ環境を整備する組織の「軸」になることではないでしょうか。例えば、経営層にデータ整備の取り組みを働きかけたり、データ活用の重要性を社内に発信したりして、縦割りの構造そのものに働きかけていく役割を担うのが、バックオフィスだといえます。
金本奈絵(以下、金本):同感です。誰もがデータを自由に活用できる「データの民主化」を実現するには、まず初めに組織の縦割りを解消しないといけません。バックオフィスは、その担い手としてまさしく適任だと思います。
では、具体的にどのような活動に取り組むべきか。マスクドさんがおっしゃる「軸」としての役目はもちろん、ITの構想や導入戦略に、もう一歩踏み込んでもよいのではないでしょうか。
例えば、データ基盤を整備するには、データの統合や連携を見据えたシステム導入を行わなければいけません。バックオフィスは、ワークフローシステムや会計システム、社内ポータルなどの数多くの業務システムを担当するので、そうしたシステム導入の戦略を担うのはどうでしょうか。
また、データ基盤を整備するには、導入後の運用も重要です。ここでも業務プロセスの改善や入力作業のルールづくり、例外処理の設計など、バックオフィスが力を発揮できるポイントが数多くあります。「縁の下の力持ち」とされがちなバックオフィスですが、こと生成AIの活用やDXにおいては、主導的な役割を果たせるのではないかと思います。
マスクド氏:データ基盤をうまく整備できない背後には、戦略性に乏しいシステム導入があるというのは、おっしゃる通りだと思います。
やはり、システムを導入した時点で満足してしまう傾向が、導入側にも現場側にも根強くあるのかなと。しかし、それではデータを有効活用できず、システムの導入効果も十分得られません。「仕事が楽にならない」「期待はずれだ」と現場の不満も蓄積していきます。
そうした事態に陥らせないのが、バックオフィスの役目だというのが金本さんのお話ですね。もちろん、おっしゃる通りですが、限界もあるように思います。同じ組織の仲間であっても、社内から協力を得られなかったり、反発を受けたりすることもあるはずです。
だから、私は「外部」の存在が必要だと訴えています。プロレスでは他団体のレスラーが「外敵」として乗り込んでくることで、団体内の結束が固まり、試合が盛り上がることがあります。システムの導入やデータ整備も同様で、「外敵」ともいえる外部の存在が手引き役となり、ときには危機感を煽ったりすることで、組織内が一つにまとまる面もあると思います。
あらゆる役割をバックオフィスが背負い込むのではなく、軋轢を生む取り組みについては、組織を動かすきっかけとして外部の力を戦略的に借りるという選択肢もあるのではないでしょうか。
現場とIT部門のあいだで、現実解をつくるバックオフィス
――IT部門や現場部門との連携についてはいかがでしょうか。生成AIに限らずシステムを活用するには、IT部門や現場と必ず関わらなくてはいけません。そうした際に、どのような連携を図るべきでしょうか。
金本:バックオフィスは、現場とIT部門の「橋渡し役」だと思います。別の言い方をすれば「通訳」でしょうか。現場の「課題」とIT部門の「専門性」を繋げて、取り組みを現実の施策に落とし込んでいくのがバックオフィスの役目ではないでしょうか。
マスクド氏:現場には課題やニーズがある一方で、IT部門には技術的、リソース的な制約があります。現場の要望を余すことなく実現しようとすると、技術的に手間がかかりすぎたり、人手が足りなかったりして、取り組み自体が頓挫してしまうかもしれません。
だからこそ、第三者の視点で実現可能なラインを見極め、両者の利害を調整しながら具体的な施策に落とし込んでいく必要があります。その「第三者」を担うのがバックオフィスというわけですね。
――「社内コンサル」のような役割ですね。
マスクド氏:まさしく。「バックオフィス」と「コンサル」は一見、縁遠い存在にも思えますが、生成AIの時代にはその役割や立ち位置が、似通ってくるのではないでしょうか。
金本:先日、とある企業のイベントに参加した際、登壇していたバックオフィスの方が「経営トップがバックオフィスの価値を認めてくれるようになって、チームの雰囲気が変わった」という話をされていました。従来、その企業ではバックオフィスが評価される機会が少なく、当のバックオフィスのチームにも「受け身」な雰囲気があったといいます。しかし、経営トップが交代し、バックオフィスの価値を積極的に評価するようになってから、チーム内のモチベーションは自然と高まり、提案型の仕事にも取り組みやすくなったそうです。
もし仮にバックオフィスが社内コンサル的な活動を担うのであれば、自主的に社内の課題や困りごとを把握して解決に導く、積極的な姿勢が欠かせません。それを実現するには、「受け身」な雰囲気は意識的に払拭する必要があるでしょう。そのためには、まず経営トップがバックオフィスの価値を認めて、さらにその価値を再定義するような取り組みが必要不可欠だと思います。
マスクド氏:経営トップに限らず、多くの人はバックオフィスを「減点方式」で評価しがちです。適切に業務を遂行するのが当たり前で、ミスがあると手厳しく指摘する。そうした評価を続けていれば、バックオフィスも保守的にならざるを得ず、アイデアや意見を自主的に発信しようとは思わないでしょう。
だから、バックオフィスに積極的な活動を期待するのであれば、経営トップが明確な後ろ盾になるべきです。そのなかで、バックオフィスに自信や積極性を醸成していき、全社的な取り組みをリードする存在に引き上げるべきではないでしょうか。
社内の文脈を知っているかどうかが、AIの精度を左右する
――生成AIやシステムを導入した後には、利用の定着や浸透を図る伴走支援の活動も必要です。伴走のフェーズにおけるバックオフィスの役割は何でしょうか。
マスクド氏:私がクライアントを支援するなかで実感するのは、バックオフィスが持つ「社内の事情に詳しい」という強みです。システムの浸透には社内への継続的な働きかけが欠かせません。そのため、私もシステムに関するレクチャー研修やドキュメントづくりを手がけることがあるのですが、そうした際にバックオフィスの担当者は「どの部門から働きかけると効率的か」「どこでつまずきやすいか」「どのようなメッセージングをすると社員に響きやすいか」といった社内ならではの勘所を把握していることが多いのです。
これはシステムの浸透を図るうえで大きな強みだと思います。組織の文化や特性を踏まえたうえで、最適な浸透施策を立案・展開できる。これは外部の立場が真似できない役割ではないでしょうか。
金本:バックオフィスは社内の部門のなかで数少ない「全社員と関わる部門」ですからね。社内の事情にももちろん詳しい。DXやAX(AIトランスフォーメーション)のような全社活動では、その強みを最も発揮しやすい立ち位置にあるわけですね。
マスクド氏:例えば、生成AIの導入効果を最大化したいのであれば、ChatGPTのように外部から提供されるサービスを利用するだけでは不十分です。生成AIは「富士山の高さは?」といった一般的な質問には強いですが、自社内の個別具体的な質問には精度の高い回答を出力できません。そのため、社内のデータを学習させた独自の生成AIを構築する必要がありますが、この際に適切なデータを学習させるには、どの部門がどのようなデータをどの粒度で保管しているのかまで把握しておく必要があります。生成AIを強化していく際にも、バックオフィスの強みは非常に役立つと思います。
――たしかに、生成AI活用において、RAG(検索拡張生成)などの精度向上の取り組みは特に重要なポイントですね。
マスクド氏:実際に、精度の低い生成AIを運用していたばかりに、社内で「AIは役に立たない」という風潮が高まり、結果的に導入に失敗した企業も少なくないようです。
金本:精度の低い生成AIは、現場のユーザーだけでなく、管理側の負担にもなります。実際に、私自身もマーケティングのコンテンツに生成AIを活用するようになってから、業務効率は向上している一方で、今まで以上に事実関係のチェックなどに時間がかかるようになりました。生成AIはとても巧妙に嘘をつきますから(笑)。生成AIの活用を浸透させるためには、こうした質の担保にどう向き合うかも大きな課題だと思います。
マスクド氏:そう思います。なので、生成AIにおける利用範囲や用途など、社内規則を定めることも大切ですね。そして、このルールづくりを担うのもバックオフィスの役割ではないかと思います。
未来のバックオフィスは組織の思考を設計する
――マスクドさんはAIの活用事例にも詳しいと思いますが、AIの活用によって企業は具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。
マスクド氏:分かりやすい例としては、日立グループの活用事例があると思います。日立グループは、AIが自律的に判断・行動する「AIエージェント」を導入して、営業事務、人事、総務、広報などの業務を効率化し、総計で数十万件にのぼる作業を省人化しました。これは昨今の人手不足問題への解決策になり得るとともに、バックオフィスを定型作業から解放して、よりクリエイティブな仕事に導く効果があると思います。
金本:実は先日、業務コンサルタントの元山文菜さんと対談した際に、「これからの総務の役割は『総務企画』ではないか」という話題があがりました。生成AIによって定型作業が削減されれば、バックオフィスの仕事は大幅に効率化されて、自社の未来像やあるべき姿を構想する「総務企画」のように、定型業務を回す役割から、業務の仕組みそのものを考える役割へと重心を移した仕事が求められるのではないかと。
マスクさんの「バックオフィスはよりクリエイティブな仕事になる」というお話にも相通じるものを感じますね。
――それでは最後に、この記事を読んでいるバックオフィスの皆さんにメッセージをお聞かせください。
マスクド氏:今後、AIはスマホのような誰にでも身近なツールになるはずです。いまや「スマホよりガラケーが良い」という声もありません。それと同様に、AIを誰もが楽々と使いこなす時代が近い将来、訪れるでしょう。
ただし、そのときに企業間で決定的な差を生むのは、「どのAIを使っているか」ではなく、「それまでに、どれだけデータと業務に向き合ってきたか」です。AIは魔法の道具ではなく、組織がこれまで積み重ねてきた思考と運用の質を、そのまま映し出す存在だからです。
その意味で、バックオフィスの皆さんには先の時代を見据えて、今のうちから社内の「お手本」になってください。率先してAIを活用し、効率化の成果を出すことはもちろん、AIが正しく機能する前提となるデータや業務の整え方を、組織のなかに根づかせていく役割を担ってほしいと思います。この重要な役割を、ぜひバックオフィスの皆さんに託したいですね。
金本:私は「一人で抱え込まないで」と伝えたいです。AI活用の風潮が急速に高まっていくなかで、導入を焦っている企業は少なくないと思います。そのなかでは、一人で導入を進めている担当者の方も多いのではないでしょうか。
ただ、AI活用は個人の努力だけで完結するものではありません。データ、業務、ルール、組織文化まで含めて、会社全体で取り組むテーマです。だからこそ、独力で抱え込むのではなく、周囲の同僚や外部のコンサルタントの力も借りながら、「仲間の輪」を広げて進めていく。そのプロセスそのものが、結果的にAIが活きる組織をつくっていくのだと思います。
\マスクド・アナライズ氏登壇/
バックオフィスDXカンファレンスAIをもっと活用するためにシステムと人財がともに進化する2日間
こんな人におすすめ
●AI活用を推進したいが何から手をつけていいのか分からない
●現場の関心を高めて全社的な取り組みに広げる方法が知りたい
●AIや最先端のテクノロジーの活用がしりたい方
<対談者プロフィール>

AIコンサルタント マスクド・アナライズ
スタートアップ社員として、AIやデータ分析における情報発信で注目を集める。 現在は独立してイベント・セミナー登壇、研修、記事や書籍の執筆、企業向け生成AI導入活用支援などを手掛ける。 著書に「会社で使えるChatGPT」「AI・データ分析プロジェクトのすべて」などがある。
note:マスクド・アナライズ
プロフィールをもっと見る

ワークフロー総研編集長
金本 奈絵
大学卒業後、大学の事務員としての経験を経て、住宅系専門紙の記者に転身。その後、活動の場をWeb媒体に広げ、オウンドメディアの運営に従事。さらに、イベント運営や商品開発、教室運営を通じて、子どもたちへの将棋の普及活動にも携わる。 現在は株式会社エイトレッドにて、バックオフィス向けオウンドメディア「ワークフロー総研」の編集長として、記事のディレクションのほか、セミナーやカンファレンスなどの企画運営を行う。趣味は旅行、特技は座禅。
プロフィールをもっと見る

「ワークフロー総研」では、ワークフローをWork(仕事)+Flow(流れ)=「業務プロセス」と定義して、日常業務の課題や顧客の潜在ニーズの視点からワークフローの必要性、重要性を伝えていくために、取材やアンケート調査を元にオンライン上で情報を発信していきます。また、幅広い情報発信を目指すために、専門家や企業とのコラボレーションを進め、広く深くわかりやすい情報を提供してまいります。




