AI時代、なぜAI活用は組織変革につながらないのか ~バックオフィスが担う「データの案内人」という役割
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AX(AI トランスフォーメーション)――AIによる組織変革を実現するために、企業はどのような体制を築き、どのような施策を実行すべきでしょうか。そして、そのなかでバックオフィスは、どのような役割を果たすべきなのでしょうか。
本記事では、某大手企業でデータ組織を牽引する傍ら、データマネジメントに関する啓発・情報発信活動を行う、よしむら@データマネジメント氏とワークフロー総研編集長の金本奈絵が対談。企業におけるAI活用の現状から、AIによる組織変革を可能にする体制づくりやデータマネジメントのあり方まで、幅広く語り合いました。
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バックオフィスは「指示出し」が苦手なのか
――今年、エイトレッドはバックオフィス業務におけるAI活用の実態調査を行いました。調査結果によれば、回答者の約8割が「バックオフィス業務で生成AIを活用している」と回答しています。この結果について、お二人のご所感はいかがですか。
よしむら@データマネジメント氏(以下、よしむら氏):「かなり使われている!」というのが率直な感想ですね。生成AIの最大の特徴は、自然言語でプロンプトを入力できることです。もしプログラミング言語での入力なら、これほど普及することはなかったと思います。ITの専門家ではないバックオフィスの担当者が、これほどの生成AIを利用しているのは、社会におけるデジタル化の成果といっていいのではないでしょうか。
金本奈絵(以下、金本):ただ一方で、同じ調査で「生成AIツールを活用していく上での課題を教えてください」という質問をしているのですが、最も多かった回答が「期待する結果を得るための質問の仕方が難しい」でした。生成AIの活用自体は広がりつつあるものの、「使いこなせている」かといえば、必ずしも期待どおりではないのだと思います。
実は先日、この点が気になって会社のバックオフィスのメンバーにヒアリングしてみました。そのなかで出てきた仮説なのですが、もしかするとバックオフィスは「そもそも指示が苦手」な傾向があるのではないかと。バックオフィスの業務には、他部門からの問い合わせや要望がトリガーとなってスタートするものが少なくありません。そのため、必然的に指示を出す機会が少なく、生成AIへのプロンプトも苦手に感じるのではないでしょうか。「指示が苦手」は、「業務の言語化が苦手」とほぼ同じだと思いますし、業務の属人化の問題にもつながっているように思います。
よしむら氏:頷ける部分もあるのですが、それは果たしてバックオフィス特有の問題なのでしょうか。私自身は長年IT系の部門で仕事をしているので、生成AIがもたらすインパクトを強く感じています。特に、コードを書く作業は、ここ数年で驚異的に効率化されました。しかし、それ以外の領域で生成AIによって革命的に業務が変わったという話は、それほど耳にしません。
つまり、プロンプトを入力する形式の現在の生成AIでは、できることには限りがあると思うのです。実際に、ビジネスには、容易に構造化や言語化ができない抽象的なタスクが山のようにあります。バックオフィスに限らず、それらのタスクを体系化してプロンプトに落とし込むのは至難の業です。
しかし、生成AIに対する世間的な期待はうなぎのぼりで、目の前の仕事に魔法をかけてくれそうな気はする(笑)。もちろん、今後、機能的な進化により、誰もがAIを縦横無尽に使いこなせる日が来るかもしれません。とはいえ、現状はその地点には至っていませんし、だからこそ、多くの人が生成AIを利用している状況をまずは肯定的に評価すべきなのではないかと思っています。
バックオフィスに親和性の高い「データの案内人」という役割
――しかし、それでは生成AI活用が、個々人の業務効率化に留まり、組織変革による価値創造にまで至らないのではないでしょうか
よしむら氏:個々人が生成AIを使い業務効率化することと、生成AIを組織変革や価値創造に結びつけることは、全く別です。例えば、バックオフィスのメンバーが個々人で生成AIを使いこなしたとしても、既存の業務が効率化されるだけで、新たな価値が生まれるわけではありません。新たな価値を生むには、組織やビジネスの構造を変革しなければいけませんし、そのためには変革に向けたビジョンや戦略を明確に描くことが必要です。
金本:それはDXと同じですね。単にデジタルを活用するのではなく、デジタルの効果を最大化できる組織に生まれ変わるのがDXの本質ですから。だから、個々人による業務効率化は、組織変革に向けた活動のリソースを確保する、第一ステップと捉えるべきですよね。
――では、具体的に生成AIで組織を変革するには、どのような取り組みが必要でしょうか。
よしむら氏:価値創造の手段は生成AIとは限りませんが、私は変革を後押しするタスクフォースのような専任チームをつくることが、まずは必要だと思っています。そして、そのチームで変革に向けたミッションやビジョンや戦略、個別具体的な戦術などを策定・実行していく。
金本:DX組織の役割と同じですよね。よしむらさんは、その組織のなかでバックオフィスの担当者が果たすべき役割は何だと思われますか。
よしむら氏:それは少し難しい質問ですね。というのも、私は前職でデータ経営の実現を目指したデータマネジメント組織の立ち上げに関わっていて、バックオフィスの担当者にも参画してもらったことがあるのですが、受け身の傾向があるのは確かだと思います。価値創造に向けて戦略を策定したり、企画を提案したりする仕事には、必ずしも慣れていないのかもしれません。
金本:バックオフィスが他の部門と異なるのは「経営と現場の間にいること」だと思うんです。組織は規模が大きくなるほど経営と現場の距離が離れますし、部門間の関係も縦割りになりがちですよね。そうした組織を変革する際には、経営とも現場とも日常的に関わっているバックオフィスの特性が、むしろ強みとして活きるのではないかと。
よしむら氏:なるほど。私の専門のデータマネジメントの領域でいえば、そうした「橋渡し」の役割は確かに重要です。生成AIを全社活用するにしても、部門横断でデータを統合し、誰もが利用できる形に整備する必要があります。
その環境を築く際に重要な役割を果たすのが「データスチュワード」です。データスチュワードとは、データの品質管理や利用ルールの策定・運用を担う、いわば「データの案内人」のような存在を指します。昨今、データ組織を設置する企業が増えており、その際にデータスチュワードを置くケースも多いです。
しかし、そうした場合には、データスチュワードがなぜか「経営寄り」になってしまうことが少なくありません。データマネジメントの理想からいえば、経営側でデータを統括する存在と、現場に寄り添いながらデータ整備のルールづくりやナレッジシェアをしていく存在の、双方が必要です。バックオフィスは、後者の現場に寄り添う側のデータスチュワードに親和性が高いかもしれませんね。
金本:ルールを策定したり、ナレッジをシェアしたりするのは、バックオフィスの日常業務ですからね。その意味では「現場寄りのデータスチュワード」の適性が高いと。
よしむら氏:そうかもしれません。ただし、問題は「その体制を誰が作るのか」です。組織変革の専任チームを作るには、経営にも現場にもITにもビジネスにも、場合によっては社内政治にも精通していないといけません。体制づくりには、予算を確保したり、経営層を説得したりする活動も含まれますから。それほどのスキルを一人で備えた「スーパーマン」でなければ、組織変革への道筋を付けるのは難しいというのが私の実感ですね。
金本:となると「どうやってスーパーマンを見つけるか」がカギになりますね。
よしむら氏:そうです。ただ、あらゆる組織にスーパーマンが所属しているわけではありません。なので、私は勉強会など、部活動のような形式で、まずは小さく取り組みを始めるのがよいのではないかと思っています。さまざまなメンバーがアイデアを持ち寄ることで、変革組織の体制を構想していく。部活動のようなチームであれば、結束力も高まりやすく、その後のプロジェクト推進の土台にもなるでしょう。いずれにせよ、組織変革を実現するには、いかに強力な専任組織を育てていくかが最大のポイントになると思います。
ベテランの経験はAI活用の武器になる
――しかし、そうした組織変革の活動を推進するには、その前段として個々人でのAI活用を広げて、業務を効率化し、リソースを確保しなければいけないわけですよね。このフェーズでつまずいている企業も少なくない印象です。
金本:「ベテラン層にAI活用がなかなか広まらない」という声は時折耳にしますね。デジタルネイティブである若手層は生成AIに関心が高く、業務でも試行錯誤して使おうとする傾向があるようです。それに対して、ベテラン層は既存の仕事の進め方に慣れ親しんでいることもあり、AI活用に後ろ向きなことが少なくないと。
ただ、私は実はベテラン層のほうがAI活用に向いているのではないかと思っているんです。先ほど、指示出しの巧拙がAI活用の成果を左右するという話をしましたが、若手層とベテラン層のどちらが指示出しが上手いかといえば、圧倒的に後者だと思います。また、生成AIのアウトプットを点検して、誤りを修正したり、不足した情報を補ったりすることもベテラン層のほうが得意なはずです。そう考えると、むしろ生成AIはベテラン層に親和的なツールではないかと思うんです。
よしむら氏:その話は私も思い当たる節があります。というのも、「Excel」を使って業務を効率化しているのは往々にしてベテランの社員だからです。
DXのプロジェクトに従事していると、部門内で利用されている業務管理のExcelシートを点検する機会が多々あります。そのなかには、VBAやマクロをこれでもかと駆使して、既存の業務に最適化したExcelシートが少なくない。まさに「神Excel」ですね。そして、そうしたExcelシートを作っているのは、多くの場合、ベテランの社員なんです。
無駄のないExcelシートを作ることができるのは、業務の手順や目的を構造的に理解して言語化できている証拠に他なりません。しかも、それをExcelに落とし込めるということは、アウトプットの品質を担保するためのテストや評価の作業にも慣れているはずです。そのスキルは生成AIのプロンプトを最適化する際などにも強力な武器になると思います。
金本:「Excel職人」は「AI職人」にもなれるわけですね?
よしむら氏:おっしゃる通りです。少なくとも業務効率化には間違いなく向いています。だから、ベテラン層にAIを普及させるのであれば、まずは各部門の「Excel職人」を入り口にするのがよいのかもしれませんね。
――「Excel職人はAI職人にもなれる」は心強い言葉ですね。最後に、お二人から今まさにAI活用に取り組む読者に向けてメッセージをお聞かせください。
よしむら氏:「まずは使い倒してみてください」でしょうか。冒頭でも述べましたが、生成AIの強みは日本語でプロンプトを入力できることです。つまり、誰にでも開かれているということです。おそらく、生成AIの普及の過程において現在は過渡期ですから、今、自分なりの活用法やメソッドを確立すれば、周囲に大きな影響を与えられるでしょうし、人材としての価値も一気に高められると思います。今はチャンスの時期だと思って、積極的にAI活用を進めてほしいですね。
金本:私は「楽しんで使ってほしい」ですね。実は、先日、知人が婚活の悩みをChatGPTに相談しているという話を聞きました。LINEのやり取りをChatGPTに読ませて、「この人と結婚しても大丈夫?」と意見を聞いているのだそうです。その話を聞いて「そんなことまでAIに相談するのか」と驚いたのですが、よくよく考えてみると、そうした使い方からAIに慣れ親しむのも一つの方法かもしれないなと。なので、プライベートでも、趣味でも、どのような使い方でもよいので、まずは楽しんでAIを利用しながら、用途を広げたり、プロンプトのコツを身に付けたりするのが、AI活用の近道なのではないかと思います。
対談者プロフィール
よしむら@データマネジメント
IT企業、金融企業、エンタメ企業と多業界でデータマネジメントを推進。データ業界の発展のためにデータマネジメントを根付かせる活動を行っている。
note:よしむら@データマネジメント担当
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ワークフロー総研編集長
金本 奈絵
大学卒業後、大学の事務員としての経験を経て、住宅系専門紙の記者に転身。その後、活動の場をWeb媒体に広げ、オウンドメディアの運営に従事。さらに、イベント運営や商品開発、教室運営を通じて、子どもたちへの将棋の普及活動にも携わる。 現在は株式会社エイトレッドにて、バックオフィス向けオウンドメディア「ワークフロー総研」の編集長として、記事のディレクションのほか、セミナーやカンファレンスなどの企画運営を行う。趣味は旅行、特技は座禅。
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「ワークフロー総研」では、ワークフローをWork(仕事)+Flow(流れ)=「業務プロセス」と定義して、日常業務の課題や顧客の潜在ニーズの視点からワークフローの必要性、重要性を伝えていくために、取材やアンケート調査を元にオンライン上で情報を発信していきます。また、幅広い情報発信を目指すために、専門家や企業とのコラボレーションを進め、広く深くわかりやすい情報を提供してまいります。




