これからの働き方を考える

請求書の紙文化がもたらしている不自由なバックオフィスの働き方

請求書の紙文化がもたらしている不自由なバックオフィスの働き方

本記事は「BtoBプラットフォーム」でバックオフィスのテレワークを支援する株式会社インフォマート 執行役員の木村 慎氏およびシニアマネージャーの園田 林太朗氏と、ワークフロー総研 所長の岡本が、ビジネスのデジタル化における課題や未来についての対談をまとめたものです。
コロナ禍により現場にどのような変化が起き、どんな課題が生まれているのか、脱ハンコ・脱紙によって働き方はどう変わっていくか、などを語りました。

<対談者プロフィール>

木村 慎 氏

株式会社インフォマート 執行役員 事業推進・戦略営業部門担当。
10年以上にわたり、経理業務の改善提案に従事。業界・業種を問わず44万社が利用する電子請求書の仕組み「BtoBプラットフォーム請求書」の普及拡大に貢献。現在は、請求書電子化の最前線を担うリーダーとして、日本全国430万社の請求書の電子化に向けて取り組んでいる。

園田 林太朗 氏

株式会社インフォマート 戦略営業部 シニアマネージャー。
アライアンスをはじめ自治体連携やオウンドメディア構築など、業務は多岐にわたる。前例のない取り組みや標準化以前の施策を担い、請求書事業の目標達成を支援するのがミッション。

ワークフロー総研 所長
岡本 康広

ワークフローシステムを開発・提供するエイトレッドの代表取締役社長も務める。
ワークフローを出発点とした働き方の見直しが意思決定の迅速化、組織の生産性向上へ貢献するという思いからワークフローの普及を目指し2020年4月、ワークフロー総研を設立して現職。エイトレッド代表としての知見も交えながら、コラムの執筆や社外とのコラボレーションに積極的に取り組んでいる。

自社だけでなく取引先のニーズによるデジタル化も

岡本:昨今、テレワークが大きな話題となっていますが、請求書電子化のニーズはどのように変化していますか?

木村:以前より年々増えていましたが、やはり今年の3~4月ごろから問い合わせが急激に増えています。同業の方に話を聞くと、感覚値でも2倍。弊社では4倍ほど増えていますね。

岡本:導入を決めた企業様も増えていますか。

木村:そうですね。もともと検討されていた企業様であれば、その7~8割がここ1~2ヶ月で導入を決められています。

岡本:やはりテレワークの影響によるものでしょうか。

木村:はい。さまざまなご意見をいただきますが、たとえば郵送物の取り扱いですね。「取引先から、紙の請求書になるべく触れたくないという声があったので」など。最近は減りましたが、3月ごろはこういったセンシティブなご相談が多かった印象です。

岡本:自社だけでなく、取引先の変化によってデジタル化せざるを得なかったという例ですね。

園田:もうひとつは出社に関する部分です。緊急事態宣言の解除後は各社それぞれの方針に従っていると思いますが、当時は社員を出勤させている企業のイメージが悪かったと思います。対外的な印象はもちろん、社内や家族の方などにも。とはいえ、出社しないと請求書などの承認ができません。

岡本:いわゆる“ハンコ問題”ですよね。

園田:はい。そのため出社回数を減らすなどの対策をとるわけですが、請求書は五月雨式に届きますよね。すると担当者が出社していない日はハンコが押せず、タイムラグなど不具合が生じます。

また、請求書は回覧する性質をもっており、社内確認が必要となればさらに時間を有します。こういった課題解決のためにご相談をいただくケースが多かったですね。

岡本:3~4月と6~7月では問い合わせ内容に変化はありましたか?

木村:最近は社会的にも混乱期を脱し、企業様も当初より腰を落ち着けて検討されている印象です。たとえば、初期はとりあえずという「やっつけ感覚」でテレワークを実施していたものが、「意外とできる」という経験をした今、本格運用に進むという流れがみられますね。

岡本:ワークフローも請求書と同様ですね。申請書をはじめ、稟議書や経理に関係するものが止まってしまうのはいけないということで、特に多くの検討企業様が意識されていたのは導入までのスピードです。そこで、登録やルールなどの設定よりもまずスモールスタートで、できるところから進めていくというケースが多かった印象です。

木村:スピードの話は、4月ごろによく話題に挙がっていました。通常は、取引先への周知を含めて2ヶ月前後の準備を経て導入し始めるのですが、たとえば2週間とか、今月中を希望といった声が出ていましたね。ただし、最終的にはやはり2ヶ月程度はかかっていたと思います。社内調整だけで完結できるものではないですからね。

岡本:「社内だけ」と「社外を含む」の違いは大きいですよね。特に請求書は相手先がいて成り立つものですから。

ワークフローでも請求書は重要な項目で、たとえば受託開発をしていたり、カスタマイズをしている場合は請求額が月末のギリギリまで確定しないケースがあります。提出遅延は入金のキャッシュフローに関わる部分なので、当社でも請求書は重要な位置付けです。

経理のデジタル化がバックオフィスの価値を高める

岡本:日本では請求書の紙文化が根強いですが、それはなぜだとお考えですか。

木村:請求書って、各社がそれぞれ独自のフォーマットで送りますよね。統一されていないそれらの内容を適切にまとめているのが経理の仕事です。専門的であるうえ、ベテランの方の専属になりがちです。

そこではITのスキルよりも慣れや経験が重視されます。一方で承認する側の担当者も「自分は慣れているから紙のほうが扱いやすくてうれしい」という側面があります。このような関係性によって、紙文化が支えられてきました。

岡本:確かにそうですね。では、この認識をブレイクスルーするためにはどのようなことが必要になるとお考えですか。

木村:今年の10月には電子帳簿保存法が改正されますし、2023年にはインボイス制度が導入されます。仕入税額控除のためには8%と10%で混在する税率を取引ごとに分ける必要があるなど、電子化しないと処理できないレベルの内容となります。背景には徴税における改ざんや漏れをなくすという意図があるのですが、このタイミングが紙から電子に切り替えせざるを得ない分岐点かと思います。

岡本:法対応に関しては、私たちも注視すべきポイントですね。

園田:はい。業界全体で共通の項目や仕様を取りまとめておくべきですし、ワークフローのような社内システムとの整合性についてもすり合わせをしていく必要があると考えています。

岡本:経理の仕事の話ですが、データを売上分析などに活用することで、より経営改善に寄与でき、バックオフィスの価値を高めることにもつながりますよね。電子化は、テレワークのメリットや請求書を良くするだけでなく、経理部の仕事の質が上がるということだと私は思います。

木村:チャンスですよね。システムによって、バックオフィスの役割も変わっていくでしょう。ちなみに、岡本さんは紙文化が社内で根強い理由はどういうところにあるとお考えですか?

岡本:これはワークフローだけの話ではないのですが、2つあると思っています。1つは紙の数=仕事をやった感と捉えられがちであるということ。評価や組織制度の問題でもあると思うのですが、見えないところで仕事をしていても評価されづらいですから、書類が価値になってしまうと。

もう1つは、今のすべての業務をペーパーレスにしようとしても対象が膨大であり、導入ハードルが高いと思われてしまうということ。スモールスタートで、できるところからやるという方法もあると思うのですが。

木村:今回のテーマでもある“脱ハンコ”に関しては、契約書がOKなら請求書も稟議に関わる書類もOKなのではないかと思いますね。

岡本:契約書は、合意した証として代表印や実印を押すというものです。一方、請求書は取引を確認して経理部長などが最終チェックして、といろいろ絡んできますので、契約書以上に請求書や申請書のほうがハンコの意味はあると思います。ただ法的な効力は契約書のほうが強いので、より権威の象徴として見られているかなと。

園田:笑い話のようですけど、捺印してPDFの請求書を取引先に送ったあと、「確認できたので捺印した原本を送ってください」と言われるなんてケースも聞きます。赤いハンコが押されている書類こそが本物、といったような“ハンコ信仰”は請求書でも根強いですよね。

岡本:はい。意外に年代を問わずあり得るかもしれません。

木村:確かに、こういった例はシニア層の問題と思われがちですが、それだけとは一概に言えないですね。それしか知らずに教え込まれた人は、若年層でもありえますから。つまりは、その企業ごとの文化によるところなのかと。

岡本:企業の規模による違いはあるかもしれませんね。規模が大きい方がスモールスタートしやすいなど。一方、ワークフローのデジタル化でいえば、最近は中小企業の導入が増えています。

たとえば従業員が30名でも、テレワークなど多様なニーズによるものですね。キーワードは「多拠点」や「分散的な働き方」。TPOにとらわれないというか、時間をずらして働くといった多様性も含まれます。

脱ハンコ・脱紙は2022年には浸透する

岡本:改めて、バックオフィスの働き方にどのような課題があると考えていますか。

木村:請求書や契約書は決まりきったフォームが基本ですが、イレギュラーな社内の承認を必要とするケースが少なくありません。契約書の例でいうと、規約をクライアントによって変更したいと、ただ内容によっては取締役の決裁が必要だったり。通常フロー以外で通さなければいけない例があります。

岡本:そうですね。これが以前であれば社内で会ったタイミングに相談することができましたが、テレワークではなかなかうまくいきません。ここで怖いのが、上長確認のない勝手な判断で処理してしまうことです。このリスクをうまく回避できる方法のひとつが、ワークフローにおけるイレギュラーな承認者を追加するような機能ではないかと思います。

今後テレワークがさらに広がることで、脱ハンコ・脱紙も進むと思います。働き方はどう変わっていくとお考えですか。

木村:請求書がアナログからデジタルにチェンジするという話に関しては、2022年には大きく進んでいるかと思います。というのも、早くから導入した企業であれば2020年後半や来年から本格運用するはずですから。地方の支社や企業ともやりとりはあるので、巻き込まれる流れで2021年から加速度的に進み、2022年には浸透するのではないかと。

岡本:そうですね。ハンコに関しては、最近もよく取りざたされていますが、押すこと自体は承認行為でしかありません。この慣れ親しんだ行為がシステムでの承認に置き換わるということなので、ペーパーレスが進めば脱ハンコも自然になってくると私は思います。

当社としては脱ハンコ・脱紙よりも、ワークフローで「意思決定を早める」が本質なので、この本質がペーパーレスや脱ハンコにつながっていくのではないかと思っています。

木村:承認行為はなくなりませんからね。その手段が変わってくると。また、TPOを選ばない働き方、つまり「場所の自由」に加えて「時間の自由」も実現できるのではないでしょうか。

園田:改めて、契約書や請求書のデジタル化と、ワークフローは両輪であるべきではないかと思います。システムをこれから入れられる方は大変かもしれませんが、同じタイミングで一気に導入されたほうが結果的には良いと思います。

岡本:ワークフローに関して私が常に思っているのは、稟議はナレッジの集積であるべきということです。申請から決裁にいくまでの承認者がアイデアや知見を付加することで、よりよい判断ができるのだと思っています。どんどん積み重ねることで、“秘伝のタレ化”できるツールにしたいですね。

木村:“秘伝のタレ化”、いい例えですね。ワークフローを改めて見直すと大きな価値が潜んでいますね。社外との取引である請求書の電子化、社内でのコミュニケーションであるワークフロー、それぞれが電子化することで企業の経営力、そして働き方がアップデートされると思います。今日はさまざまなお話をありがとうございました。

岡本:こちらこそお時間をいただきましてありがとうございました。

ワークフローを知らない人に 上手に説明するための「ワークフローとは?」
ワークフロー総研 編集部
この記事を書いた人 ワークフロー総研 編集部

「ワークフロー総研」では、ワークフローをWork(仕事)+Flow(流れ)=「業務プロセス」と定義して、日常業務の課題や顧客の潜在ニーズの視点からワークフローの必要性、重要性を伝えていくために、取材やアンケート調査を元にオンライン上で情報を発信していきます。また、幅広い情報発信を目指すために、専門家や企業とのコラボレーションを進め、広く深くわかりやすい情報を提供してまいります。

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